PET/CTで免疫細胞を追跡する新時代:[89Zr]Zr-オキシン標識白血球のヒト初回投与安全性と体内動態

解説対象論文: First-in-human dosimetry and biodistribution of [89Zr]Zr-oxine-labeled autologous leukocytes using PET/CT
European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging|被引用数: 0(2026年10月4日時点)
体内の免疫細胞(白血球)の動きを正確に可視化することは、感染症、炎症、がん免疫療法の効果評価において極めて重要です。本記事では、最新のオープンアクセス論文に基づき、PET/CTを用いた新しい白血球追跡法である[89Zr]Zr-オキシン標識自己白血球のヒト初回投与における安全性、生体内分布、および放射線線量評価の結果について詳しく解説します。この研究は、健康な成人女性4名を対象に行われ、この画期的なイメージング技術の臨床応用への扉を開くものです。
はじめに:なぜ新しい白血球追跡法が必要なのか?
どうも、Beyond the Pixelです。
感染症や炎症の診断、さらにはCAR-T細胞のような細胞ベースの治療法の効果を評価する上で、体内の免疫細胞(白血球)の動きを正確に追跡する技術は非常に重要です。これまで、白血球のイメージングには主にSPECT(単一光子放出コンピュータ断層撮影)が用いられ、インジウム-111(111In)やテクネチウム-99m(99mTc)といったガンマ線放出核種で標識された白血球が使われてきました。しかし、PET(陽電子放出断層撮影)はSPECTに比べて感度が高く、空間分解能と時間分解能に優れているため、より詳細な細胞の動態を捉えることが期待されています。

近年、長寿命のPET用放射性同位体であるジルコニウム-89(89Zr)の安定的な生産が可能になったことで、PETを用いた白血球の標識・追跡が現実的になってきました。89Zrは半減期が3.3日と比較的長く、111Inと同程度であるため、投与後数日から1週間にわたる白血球の追跡に適しています。これまでの前臨床研究では、89Zrで標識された白血球の実行可能性が示されていましたが、ヒトにおける安全性や放射線線量(線量評価)に関する詳細なデータは不足していました。本記事でご紹介する研究は、[89Zr]Zr-オキシンで標識された自己白血球(対象者自身の白血球)を健康な女性に初めて投与し、その安全性と体内動態、そして放射線線量を評価することを目的とした画期的なものです。
研究デザインと方法:[89Zr]Zr-オキシン標識白血球の評価
この前向きヒト初回臨床試験は、健康な成人女性4名を対象に行われました。対象者の年齢は37歳から53歳で、平均42.3±7.4歳でした。

研究の主な目的は、[89Zr]Zr-オキシン標識自己白血球の放射線線量と安全性を評価することです。

研究参加にあたっては、厳格な選択基準と除外基準が設けられました。例えば、妊娠中や授乳中の女性、重度の病状により画像診断に参加できない対象者、慢性感染症、がん、自己免疫疾患を持つ対象者は除外されました。

[89Zr]Zr-オキシンは、米国薬局方(USP)のガイドラインに従って調製され、高い放射化学的純度と滅菌性が確保されました。各対象者から約120 mLの末梢血を採取し、そこから白血球を分離。この白血球を[89Zr]Zr-オキシン(37~51.8 MBq)とインキュベートして標識しました。標識された白血球は、未結合の放射能を除去するために洗浄され、最終的に3~4 mLの注射量に再懸濁されました。平均投与放射能は10.9 ± 2.9 MBqでした。これらの標識白血球は、採血後5時間以内、または標識後3時間以内に静脈内投与されました。
PET/CT画像は、投与直後、4時間、24時間、48時間、72時間の計5つの時点で全身を撮影しました。臓器の関心領域(ROI)は、機械学習ベースのアプローチを用いてCT画像上で自動的にセグメンテーションされ、その後手動で修正されました。時間積分活性係数(TIACs)はシンプソンの数値積分法を用いて計算され、平均吸収線量係数と有効線量係数はOLINDA 2.1ソフトウェアを用いて推定されました。
注目の結果:安全性、体内動態、線量評価
この研究において、[89Zr]Zr-オキシン標識自己白血球の投与は全ての対象者において良好に許容され、有害事象や臨床的に意義のある検査値異常は観察されませんでした。これは、この新しいPETイメージングアプローチの安全性を強く示唆するものです。
体内動態に関しては、投与直後から24時間後にかけて、肝臓、脾臓、心臓、血液プールで最も高い放射能の取り込みが観察されました。24時間後から48時間、72時間後にかけては、肝臓、脾臓、そして骨盤や腸骨稜などの骨髄において取り込みが顕著になりました。これは、[111In]In-オキシン標識白血球で確立されている分布パターンと質的に類似していました。 興味深いことに、血漿中の活性濃度は、特に初期時点で全血中の活性よりも高かったことが示されています。

これは白血球の溶解や活性の流出、あるいは一部の白血球が血漿中に残存したことによる可能性があり、今後の研究でさらに調査する必要がある点として言及されています。
放射線線量評価の結果では、臓器ごとの平均吸収線量係数(mGy/MBq)が最も高かったのは、脾臓(3.52 ± 1.38)、肝臓(2.1 ± 0.45)、副腎(1.62 ± 0.24)、子宮(1.48 ± 0.98)、腎臓(1.36 ± 0.12)でした。

平均有効線量係数(mSv/MBq)は0.92 ± 0.06 mSv/MBqでした。これは、成人女性における[111In]In-オキシン標識白血球の分布に基づく予測値1.14 mSv/MBqよりも低い値でした。

胃壁(0.13 ± 0.02)、肺(0.13 ± 0.01)、赤色骨髄(0.10 ± 0.001)、乳房(0.08 ± 0.006)、肝臓(0.08 ± 0.01)が有効線量係数への寄与が大きかった臓器として挙げられています。


考察と今後の展望:新たなイメージング技術の可能性
このヒト初回試験は、[89Zr]Zr-オキシン標識自己白血球がヒトにおいて安全であり、その放射線線量プロファイルが他の89Zr標識放射性医薬品の範囲内であることを示しました。これは、感染症、炎症、および細胞ベース治療におけるPETベースの白血球イメージングの将来的な臨床応用をサポートする重要な一歩となります。
観察された体内分布は、マウスや非ヒト霊長類を用いた前臨床研究での知見と一致しており、主に肝臓、脾臓、赤色骨髄に局在していました。これは、確立された[111In]In-オキシン標識白血球の体内分布パターンとも一致しています。
[111In]In-オキシン標識白血球に基づく予測値と比較して、有効線量係数が低かったことは、PET/CTベースの全身臓器線量評価法がSPECTのみの方法とは異なることや、89Zr-オキシンと111In-オキシンとの間の物理的・生物学的因子における差が反映されている可能性があります。特に、[89Zr]Zr-オキシン標識は細胞内に放射性核種を導入するため、白血球内での保持が向上し、標識の解離が減少する可能性があります。
このアプローチは、CAR-T細胞などの細胞ベース治療法を標識し、がん治療中の初期の生体内分布や腫瘍標的化をPETで追跡するのにも適している可能性があります。また、中枢神経系における神経炎症性疾患や神経変性疾患において脳浸潤白血球を追跡する上でも、[89Zr]Zr-オキシン標識白血球は特に有用であると考えられています。
研究の限界としては、健康な女性4名という小規模なサンプルサイズであったため、統計的検出力と結果の一般化可能性が限定される点が挙げられます。また、72時間以降の時間積分活性係数は物理的減衰のみを仮定して推定されたため、生物学的クリアランスが継続する臓器については、滞留時間と吸収線量が過大評価されている可能性があります。しかし、これは保守的な線量評価の仮定であり、実際の吸収線量はこれよりも低いことが予想されます。さらに、白血球の機能特性に関する詳細な評価は行われていません。今後の研究では、男性対象者や感染症または炎症性疾患を持つ対象者を含む大規模なコホートで、これらの知見をさらに検証し、一般化可能性を評価することが重要です。
結論
このヒト初回線量評価研究により、[89Zr]Zr-オキシン標識自己白血球が健康なヒトにおいて良好に許容されることが示されました。観察された生体内分布は、前臨床研究と一致しており、算出された有効線量係数も、[111In]In-オキシンに基づく予測値と整合性がありました。これらの結果は、[89Zr]Zr-オキシン標識自己白血球のヒトにおける初めての安全性、生体内分布、線量評価データを提供し、PETベースの免疫細胞追跡を用いた将来の臨床研究の基盤を築くものです。
用語集
- [89Zr]Zr-オキシン: ジルコニウム-89(89Zr)で標識されたオキシンという化合物で、細胞内に取り込まれ、PET画像で細胞を追跡するために使われる。
- PET/CT: 陽電子放出断層撮影(PET)とX線CTを組み合わせた画像診断装置。PETで生体機能情報を、CTで形態情報を同時に取得できる。
- SPECT: 単一光子放出コンピュータ断層撮影。ガンマ線放出核種を用いて体内の機能を画像化する核医学検査の一種。
- 白血球: 免疫システムの重要な構成要素である血液細胞の一種で、感染症や炎症に対して体を防御する役割を持つ。
- 線量評価: 放射性医薬品が体内に投与された際に、各臓器や全身が受ける放射線量を計算し評価すること。
- 生体内分布: 体内に投与された薬剤や放射性物質が、時間とともにどの臓器や組織にどれくらい分布するかを示すパターン。
- 有効線量係数 (mSv/MBq): 投与された放射能量(MBq)あたり、全身が受ける実効的な放射線量(mSv)を示す指標。
- 吸収線量係数 (mGy/MBq): 投与された放射能量(MBq)あたり、特定の臓器が受ける放射線エネルギー量(mGy)を示す指標。
- 自己白血球: 対象者自身の血液から採取された白血球のこと。拒絶反応のリスクが少ないため、細胞治療などに用いられる。
- 半減期: 放射性同位体が放射能の半分を失うまでの時間。PET薬剤の追跡期間に影響する。
- ROI (関心領域): 画像上で特定の臓器や組織など、解析対象となる領域を指す。
- OSEM (Ordered-Subsets Expectation Maximization): PET画像再構成に用いられるアルゴリズムの一つで、画像の質を向上させる。
- ICRP (国際放射線防護委員会): 放射線防護に関する国際的な勧告を行う機関。
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