腹腔内圧モニタリング:Accurynシステムの臨床的精度と腎臓への微細な影響

解説対象論文: Clinical validation of an intra-abdominal pressure monitoring system by comparison with pneumoperitoneum pressure
Journal of Clinical Monitoring and Computing|被引用数: 0(2026年10月16日時点)
重症な対象者にとって、腹腔内圧の上昇(腹腔内圧亢進症)は臓器機能不全や死亡率増加と関連があり、特に腎臓は脆弱です。正確でタイムリーな腹腔内圧測定は、早期発見と適切な治療介入のために不可欠ですが、従来の測定方法は課題を抱えています。この研究では、新しい持続的腹腔内圧モニタリングシステム「Accuryn®」の臨床での精度を検証し、腹腔鏡手術中の腹腔内圧上昇が腎臓に与える影響を尿バイオマーカーの観点から評価しました。
はじめに:腹腔内圧亢進症と正確なモニタリングの重要性
どうも、Beyond the Pixelです。重症な対象者において、腹腔内圧(IAP)が異常に上昇する「腹腔内圧亢進症(IAH)」は、臓器機能不全や死亡率の増加と密接に関連しています。特に腎臓は、IAPの上昇に対して非常に脆弱であり、急性腎臓損傷(AKI)が早期に発生するリスクがあります。このため、腹腔内圧亢進症を早期に発見し、適切な治療介入を開始するためには、腹腔内圧を正確かつタイムリーに測定することが不可欠です。しかし、従来の腹腔内圧測定方法には、測定に時間がかかるなどの課題がありました。これに対応するため、持続的な腹腔内圧モニタリングシステムが開発されており、その一つがAccuryn®モニタリングシステムです。この研究の第一の目的は、このAccuryn®モニタリングシステムが、腹腔鏡手術中にリファレンス標準であるCO2-送気装置と比較してどの程度正確であるかを評価することでした。第二の目的は、気腹によるIAP上昇が、腎臓バイオマーカーのレベルにどのような変化をもたらすかを評価することでした。
研究方法:Accurynシステムの評価と腎臓バイオマーカーの追跡
この研究は、フローニンゲン大学医療センターで腹腔鏡手術を受ける対象者を対象とした前向きコホート研究として実施されました。対象者には、子宮内膜症の切除手術を受ける対象者と、腹腔鏡下結腸手術を受ける対象者が含まれました。18歳未満の対象者、慢性腎臓病、慢性透析、または腎臓移植の既往がある対象者は除外されました。腹腔内圧の測定は、Accuryn®モニタリングシステム(Accuryn Medical社製)を用いた尿道カテーテルを通じて行われました。このシステムは、尿道カテーテルの先端にある圧力センサー付きの半弛緩性バルーンを使用して、膀胱内のIAPを測定し、同時に尿を排出します。比較のためのリファレンス標準としては、腹腔鏡手術中に気腹を確立するために使用されるCO2-送気装置が用いられました。具体的には、標準的な腹腔鏡手術ではUHI-4送気装置が、ロボット支援腹腔鏡手術ではLexion AP50/30送気装置が使用されました。これらの送気装置は、それぞれ目標気腹圧が設定されていました(標準腹腔鏡では12 mmHg、ロボット支援では初期12 mmHgから8 mmHgに低下)。

この図は、研究における対象者の組み入れと解析のフローを示しています。合計30名の対象者が登録され、プロトコル開発のためのトレーニング対象者1名が除外された後、29名の対象者のデータが解析に含まれました。これらの対象者は、標準的な腹腔鏡手術でUHI-4 CO2-送気装置が使用されたグループ(22名、青色)と、ロボット支援手術でLexion AP50/30 CO2-送気装置が使用されたグループ(7名、赤色)に分けられました。
腹腔内圧測定は、手術開始30分後から1時間おきに気腹終了まで繰り返し行われ、CO2-送気装置の圧力とAccuryn®モニタリングシステムの圧力が記録されました。尿サンプルは、切開前、切開1時間後、手術終了時、術後1時間、術後1日という複数の時点で収集されました。これらの尿サンプルでは、腎臓損傷分子1(KIM-1)、メタロプロテイナーゼ2の組織阻害剤(TIMP-2)、尿中好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、肝臓型脂肪酸結合タンパク質(L-FABP)、およびアルブミン-クレアチニン比といった腎臓バイオマーカーが測定されました。統計解析には、繰り返し測定を考慮したBland-Altman解析が用いられ、バイアス、合致の限界(LOA)、精度が評価されました。
研究結果:Accurynシステムの性能と腎臓バイオマーカーの変化
2025年3月から2026年1月にかけて、29名の対象者から合計99回の腹腔内圧測定が行われました。対象者の年齢中央値は35歳、BMIは27.3 kg/m²でした。ほとんどの対象者(97%)は女性であり、子宮内膜症手術を受けていました。

この表は、研究に参加した29名の対象者の人口統計学的情報、併存疾患、および周術期の特性をまとめたものです。対象者の年齢中央値は35歳、BMIは27.3 kg/m²でした。大部分が女性(97%)で、子宮内膜症手術を受けていました。腹腔鏡手術の種類や、腹腔内圧モニタリングシステムおよびCO2-送気装置によるIAP中央値なども示されています。
AccurynモニタリングシステムとCO2-送気装置の測定値は中程度の相関を示しました(R=0.38、p値:<0.001)。

この散布図は、CO2-送気装置による腹腔内圧測定値とAccurynモニタリングシステムによる測定値の相関を示しています。点線は両者の測定値が完全に一致する場合を示しており、AccurynシステムがCO2-送気装置の値をやや過小評価する傾向にあることが視覚的に示されています。青色の点はUHI-4送気装置、赤色の点はLexion AP50/30送気装置での測定値です。
解析の結果、AccurynモニタリングシステムはCO2-送気装置によって設定されたIAPを平均で約1 mmHg過小評価していました。全体のバイアスは-1.4 mmHg(95%信頼区間: -1.96~-0.82)であり、合致の限界(LOA)は-5.96 mmHgから3.2 mmHgでした。精度は2.3 mmHgでした。

この表は、腹腔内圧モニタリングシステムとCO2-送気装置間のバイアス、合致の限界(LOA)、および精度を、CO2-送気装置の種類別に示しています。全体として、バイアスは-1.4 mmHg、LOAは-5.96 mmHgから3.2 mmHg、精度は2.3 mmHgでした。AP50/30グループの方がUHI-4グループよりもバイアスが小さく、LOAが狭いことが分かります。
CO2-送気装置の種類によるサブグループ解析では、Lexion AP50/30送気装置(主にロボット支援手術で使用され、低い圧力レベルで測定されることが多い)と比較した場合の方が、Accurynシステムのバイアスが小さく、合致の限界が狭いことが示されました。これは、Accurynモニタリングシステムがより低い圧力レベルでより正確に測定できる可能性を示唆しています。

このブロットは、AccurynモニタリングシステムとCO2-送気装置による腹腔内圧測定値間の合致度をBland-Altman解析で視覚化したものです。(a)は両システム全体、(b)はUHI-4送気装置、(c)はLexion AP50/30送気装置を使用した場合の結果です。実線はバイアス(平均差)を、点線は合致の限界(LOA)を示しています。
腎臓バイオマーカーの経時的変化を見ると、KIM-1/Cr比、TIMP-2/Cr比、およびアルブミン/Cr比は、腹腔鏡手術中にベースラインと比較して有意に増加しました。

この図は、腹腔鏡手術の前、中、後に測定された尿中KIM-1、TIMP-2、L-FABP、およびアルブミン-クレアチニン比の各腎臓バイオマーカーの中央値と四分位範囲を時系列で示しています。KIM-1、TIMP-2、およびアルブミン-クレアチニン比が手術中にベースラインと比較して有意に増加していることが示されています。これらの結果は、腹腔鏡手術中の比較的小さなIAPの上昇であっても、腎臓にサブクリニカル(臨床症状に現れない程度)な影響を及ぼす可能性があることを示唆しています。L-FABP/Cr比の変化は、気腹の持続時間と中程度の相関を示しました。
考察:システムの性能と腎臓への影響
本研究は、Accuryn®モニタリングシステムを臨床環境で評価した初めての研究であり、99回の測定値と29名の対象者のデータを用いてその精度を検証しました。結果として、AccurynシステムはCO2-送気装置のIAPを約1 mmHg過小評価しましたが、全体として合理的な精度と精密性を示しました。しかし、合致の限界が広かったため、解釈には注意が必要です。この広い合致の限界は、全体的なデバイスの精度を制約する要因となり得ます。
IAPが9~12 mmHgの中程度のレベルではAccurynシステムがCO2-送気装置を過小評価する傾向がありましたが、12 mmHgを超えるレベルではわずかに過大評価する傾向が見られました。これは、測定システムの変動性や、気腹圧の安定性の乱れ(吸引や腹部・膀胱の操作など)が影響している可能性があります。また、リファレンス標準として使用するCO2-送気装置の種類によって性能が異なる可能性も示唆されました。ロボット支援手術で使用されるLexion AP50/30送気装置と比較した場合、Accurynシステムのバイアスは小さく、精度も高かったことから、腹壁により近い位置に圧力プローブが配置されることで、より安定した気腹圧が得られることが理由として考えられます。今後の検証研究では、送気装置の特定の種類を考慮する必要があります。
World Society of the Abdominal Compartment Syndrome (WSACS)は、新しいIAP測定デバイスの検証基準として、バイアスが1 mmHg未満、精度が2 mmHg、合致の限界が±4 mmHgという安全マージンを推奨しています。これらの基準と比較すると、Accurynモニタリングシステムは「限界的な性能」と評価できます。ただし、これらの基準は主に膀胱間比較で用いられるものであり、CO2-送気圧と膀胱圧の比較においては、観察された偏差が説明される可能性があると以前の研究でも示されています。
腎臓バイオマーカーの増加は、KIM-1が尿細管損傷のマーカーであり、TIMP-2が腎臓尿細管ストレスを反映することから、腹腔鏡手術中の比較的小さなIAP上昇でも腎臓にサブクリニカルな影響を与えることを示唆しています。この知見は、以前の研究で腹腔鏡手術中に血漿NGALの有意な増加が観察された結果とも一致しています。今後、IAP上昇と腎臓機能の関係をさらに解明するための研究が求められます。
本研究にはいくつかの限界があります。測定されたIAPの範囲が腹腔鏡手術の安全な最低動作圧力に限定されており、より高いIAPにおけるシステムの性能は評価されていません。また、手術中の測定は、気腹の安定性を乱す可能性があり、システムの性能を過小評価した可能性があります。測定がトレンデレンブルグ体位で行われたことや、対象者が主に女性であったこと、サンプルサイズが限定的であったことなども、ICU集団への一般化を制限する要因となります。さらに、研究者に対する盲検化が行われなかったため、観察バイアスの可能性も考慮されます。膀胱圧とCO2-送気圧という異なる解剖学的部位からの測定値比較も、研究結果に影響を与えた可能性があります。
結論:Accurynシステムの合理的な性能と腎臓保護への示唆
この研究により、Accuryn®モニタリングシステムは臨床環境において合理的な精度と精密性を示すことが明らかになりました。CO2-送気装置と比較して約1 mmHgのIAP過小評価がありましたが、その性能は許容範囲内にあると考えられます。さらに、腹腔鏡手術中の腹腔内圧上昇は、腎臓バイオマーカーの増加として直接的に腎臓に影響を及ぼす可能性が示唆されました。この新しいモニタリングシステムは、重症な対象者のIAP管理において、早期の腎臓損傷の兆候を捉える上で重要なツールとなる可能性を秘めています。
用語集
- 腹腔内圧亢進症 (IAH): 腹腔内の圧力が持続的に上昇し、臓器機能に悪影響を及ぼす状態です。
- 腹腔内圧 (IAP): 腹部内部の圧力です。正常値を超えると臓器に負担がかかります。
- 腹部コンパートメント症候群 (ACS): 腹腔内圧亢進症がさらに悪化し、臓器不全を伴う重篤な状態です。
- CO2送気装置: 腹腔鏡手術中に腹部をCO2ガスで膨らませ、手術空間を確保するための装置です。
- 気腹: 腹腔内にガス(通常はCO2)を注入して腹部を膨らませる処置で、腹腔鏡手術に必要です。
- 腹腔鏡手術: 腹部に小さな切開をして、腹腔鏡と呼ばれるカメラ付きの細い管を挿入し、モニターを見ながら行う手術です。
- Bland-Altman解析: 二つの異なる測定方法間の合致度を評価するための統計手法です。
- バイアス: 二つの測定方法間で観察される平均的な差のことです。測定の系統誤差を示します。
- 合致の限界 (LOA): Bland-Altman解析において、二つの測定方法間の差がどの範囲に収まるかを示す区間です。
- 精度: 測定値のばらつきの小ささ、すなわち繰り返し測定した際に得られる値の一貫性を示します。
- 腎臓損傷分子1 (KIM-1): 腎臓の尿細管が損傷した際に上昇するバイオマーカーです。
- メタロプロテイナーゼ2の組織阻害剤 (TIMP-2): 腎臓のストレスや損傷の兆候として用いられるバイオマーカーの一つです。
- 尿中好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン (NGAL): 急性腎臓損傷の早期マーカーとして知られるバイオマーカーです。
- 肝臓型脂肪酸結合タンパク質 (L-FABP): 腎臓の尿細管障害を反映するバイオマーカーで、特に虚血性腎障害で上昇します。
- アルブミン・クレアチニン比: 尿中のアルブミンとクレアチニンの比率で、腎臓の濾過機能障害を示します。
- 尿道カテーテル: 尿を排出したり、膀胱内圧を測定したりするために尿道から膀胱に挿入される細い管です。
- トレンデレンブルグ体位: 対象者の頭部を低く、下肢を高くした体位で、腹腔鏡手術で臓器を移動させるためによく用いられます。
- ゴールデンスタンダード: 特定の測定や診断において、最も信頼性が高く、比較の基準となる方法や基準のことです。
- World Society of the Abdominal Compartment Syndrome (WSACS): 腹腔内圧亢進症と腹部コンパートメント症候群に関する国際的な専門家組織です。
コメントを残す