医療画像解析を効率化するオープンソースライブラリRadiomicsJの機能と活用法

解説対象論文: RadiomicsJ: a library to compute radiomic features
Radiological Physics and Technology|被引用数: 7(2026年9月7日時点)
医療画像から疾患の情報を読み解く「ラジオミクス」は、その可能性が広く認識されながらも、実際の臨床応用はまだ限定的です。これは、確立された研究手法の不足や、特徴量計算、予測モデルの利用を支援するシステムの必要性が背景にあります。本記事では、この課題に応えるべく開発されたオープンソースライブラリ「RadiomicsJ」について、その機能と医療画像解析研究への貢献を探ります。
ラジオミクス研究の現状と課題
どうも、Beyond the Pixelです。医療画像から疾患の情報を定量的に抽出し、分子生物学的な特徴として捉える「ラジオミクス」は、近年その可能性が広く認識されています。形態学的構造レベルから遺伝学に至るまで、医療画像からの情報を分子生物学的な特徴として捉えることで、放射線医学や放射線技術の発展に不可欠な要素と考えられています。特に、腫瘍学の分野での利用が報告されており、脳腫瘍の染色体変異(1p/19q共欠失)の有無の予測や、腫瘍免疫生物学および免疫療法の反応に関するバイオマーカーとしての可能性も示されています。ラジオミクス研究の成果は、コンピューター支援診断/検出のためのSaMD(Software as a Medical Device)として実装される市場価値も持っています。
一般的なラジオミクスの手順は、データ収集と整理、関心領域(ROI)マスクの作成、ラジオミクス特徴量の計算、予測モデルの作成と評価といったステップで構成されます。医療データは通常、電子カルテ(EHR)や画像情報システム(PACS)から収集・整理されますが、Cancer Imaging Archive(TCIA)のようなオープンデータも広く利用されています。ROIマスクは、画像内で解析する領域を定義するために作成され、医療画像解析ソフトウェアやDICOMワークステーションを用いて行われます。そして、ラジオミクス特徴量の計算には専用のプログラムが必要です。
これまでにもPyRadiomics、Radiomics Calculator(RaCat)、Medical Imaging Interaction Toolkit(MITK)といった優れたオープンソースプログラムが開発されてきました。例えば、PyRadiomicsは計算負荷の高いテクスチャ特徴量の計算をC言語プログラムで実装し、Pythonラッパーを通じて操作可能にすることで、高速処理と使いやすさを両立しています。また、3D Slicerのプラグインとしても動作し、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)からの処理も可能です。しかし、計算可能な画像特徴量の種類、計算結果のばらつき、プログラムを動作させるシステム環境の制限といった課題が依然として存在していました。このような背景から、本研究ではオープンソースのラジオミクス特徴量計算ライブラリ「RadiomicsJ」が開発されました。RadiomicsJは、ラジオミクス研究の効率を高める新しい研究ツールとなるだけでなく、オープンソースプログラムとして公開されることで、医療画像特徴量研究のための知識資源となることが期待されています。
RadiomicsJの機能と開発
RadiomicsJは、これらの課題を解決するために開発されたオープンソースライブラリです。特に、バイオメディカル画像処理で広く利用されているImageJを画像処理に採用しており、Javaで開発されているため、Javaが動作する主要なオペレーティングシステムで幅広く利用可能です。また、新しい画像特徴量を追加する可能性も秘めています。
このライブラリは、Eclipse(バージョン2020)とJavaプログラミング言語(OpenJDKバージョン1.8)を使用して開発されました。画像処理にはImageJ(バージョン1.53i)が用いられ、3D処理にはVirtual Insect Brain(Java用3D可視化アプリケーションプログラミングインターフェース)が依存ライブラリとして使用されています。ライブラリの管理にはMaven(バージョン3.8.1)が利用されました。特徴量計算の検証にはデジタルファントム1とCT PAT1が使用され、ケーススタディには低悪性度神経膠腫の1p/19q共欠失データセットが用いられています。

RadiomicsJにおけるラジオミクス特徴量の計算プロセスフローは(図2)に示されており、以下の段階で構成されます。まず、オリジナルの画像とマスク画像の画像数、ボクセルサイズが同じであるか、マスク画像に指定されたラベル値があるかどうかが検証されます。次に、ボクセルリサイズを用いてリサンプリングが実行されます。リサンプリングは、画像とマスクを特定のボクセルサイズ(例: ボクセル幅1.0mm、高さ1.0mm、深さ1.0mm)に再構築し、3次元では三線形補間または3D最近傍補間、2次元では最近傍補間、双線形補間、または双三次補間が可能です。
その後、リサンプリングされたマスクは範囲フィルタリングと外れ値フィルタリングによって再セグメント化されます。範囲フィルタリングは、リサンプリングされた画像の指定された範囲の輝度値に相当するピクセルのみをマスクに残す処理です。外れ値フィルタリングは、範囲フィルタリングされたマスクに対応するピクセル値の外れ値を除外します。最後に、必要に応じて画像標準化が行われます。これらのプロセスに加えて、ノイズ除去やウェーブレットフィルタリングなどの画像フィルタリングが必要な場合は、RadiomicsJへの入力前に行う必要があります。
RadiomicsJは、IBSI(Image Biomarker Standardisation Initiative)リファレンスマニュアルv11で定義された168の特徴量と、特徴量選択の一般化を高めるための4つの追加特徴量(フラクタル次元特徴量ファミリーの一つである立方体計数法による容量と、3つの追加の強度ベース統計特徴量)の実装を目標としました。IBSIリファレンスマニュアルに記載されていない、または非推奨とされた6つの特徴量は実装されませんでした。過剰尖度(intensity histogram family)は尖度(kurtosis)として実装されています。

にRadiomicsJで実装されたラジオミクス特徴量の一覧を示します。
RadiomicsJは2次元と3次元の両方の画像を処理するように設計されており、デフォルトでは3次元処理が採用されています。GLCM(Gray-Level Co-occurrence Matrix)およびGLRLM(Gray-Level Run Length Matrix)は26の角度(対称性のため13)から計算され、各角度の行列を統合するために3次元平均が適用されます。(表1)
RadiomicsJはJavaライブラリとしてだけでなく、ImageJプラグインのGUIからも実行可能です(

、

)。RadiomicsJ ImageJプラグインは、(図2)に記述された計算プロセスを実行するための便利なインターフェースを提供します。8ビット、16ビット、32ビットのグレースケール画像を読み込むことができ、ユーザーはImageJを使用して入力画像とマスク画像を作成し、RadiomicsJに入力して特徴量計算を実行できます。ImageJでの画像フィルタリング後にフィルタリングされた画像を入力画像として使用するなど、フィルタリングベースの画像特徴量の計算にも利用可能です。計算結果はCSV形式で保存され、後処理としてWEKAやOrangeのようなアプリケーション、またはJava Statistical Analysis Tool(JSAT)、PyCaret、Scikit-Learnなどのライブラリを用いて機械学習データセットとして利用できます。
(図3)
(図4)
検証結果と考察
RadiomicsJの機能は詳細に評価されました。まず、画像前処理の検証では、CT PAT1画像を使用してリサンプリング、範囲フィルタリング、外れ値フィルタリングのプロセスにおける差異がテストされました。IBSI検証設定CおよびD(

参照)の下で評価が行われ、リサンプリングされたマスクのz軸サイズにわずかな不一致が確認されましたが、範囲フィルタリングと外れ値フィルタリングは正しく実行されていることが示されました。このz軸方向のリサンプリングの違いがRadiomicsJの実装エラーであるか検証するために、SimpleITK(バージョン2.1.0)を用いた追加テストが実施され、RadiomicsJと同じ軸方向のバウンディングボックスサイズが示されました。これは、リサンプリングの実装がIBSI参照マニュアルに使用されたソフトウェアとは異なっていたことが原因であり、RadiomicsJの内部実装が正確であることを示唆しています。
(表2)

特徴量計算アルゴリズムの検証では、デジタルファントム1を用いてIBSI参照値との比較が行われ、168の画像特徴量のうち98.8%(166/168)が許容範囲内で一致しました。残りの2つの特徴量も許容範囲内の一致を示し、RadiomicsJに実装された特徴量計算アルゴリズムがIBSIリファレンスマニュアルの定義に準拠し、正確に計算できることが確認されました。CT PAT1(設定C、D)を用いたテストでは、許容範囲内の一致率はそれぞれ73.2%と30.3%でしたが、不一致の出力結果も参照値から著しい逸脱は見られませんでした。
RadiomicsJの有用性を補完するため、低悪性度神経膠腫の1p/19q共欠失予測をケーススタディとして、特徴量抽出からモデル評価までの一連のプロセスが実証されました。T2強調画像(T2W)と造影後T1強調画像(T1WCE)から画像特徴量を計算し、PyCaret(バージョン2.3.8)を用いて予測モデルを評価しました。テストデータを用いたROC-AUC(受信者操作特性曲線下面積)の結果は0.78でした。これは、他の報告されている約0.8というROC-AUCの結果と同様の範囲です。最も重要な特徴はT2W skewness(歪度)でした(

)。これは、予測モデルが腫瘍の境界構造の複雑さを重要な特徴として学習した結果であり、ラジオミクス特徴量の重要性を考慮することで、診断の解釈との関係を説明するのに役立つ可能性があります。
既存のPyRadiomics(バージョン3.0.1)との比較では、PyRadiomicsが3D特徴量に対して110の特徴量(画像フィルタリングなし)を計算できるのに対し、RadiomicsJは172の特徴量を計算できます。この違いにより、RadiomicsJは分類予測に効果的な特徴量の選択をより広範に支援できた可能性があります。大量の画像データ(数万枚のオーダー)の場合、深層学習アプローチが第一の選択肢になりつつありますが、特定の研究デザインに適格な医療データを選択する場合、大量のデータを収集することはしばしば困難です。そのような場合、従来の機械学習アプローチを活用したラジオミクスが効果的です。ラジオミクス特徴量は深層学習でも利用可能であり、放射線学的特徴量を用いたラッドスコアをカリキュラム学習の損失関数に適用した例も報告されています。
(図6)
結論
本研究では、オープンソースのラジオミクス特徴量計算ライブラリ「RadiomicsJ」が開発されました。RadiomicsJはJavaを用いて開発されており、主要なすべてのオペレーティングシステムで実行可能です。デジタルファントム1を用いたIBSI参照値との比較では、98.8%(166/168)が許容範囲の一致を示し、残りの2つの特徴量も許容範囲内の一致でした。さらに、CT画像(CT PAT1)を複数の画像前処理条件でテストした結果、RadiomicsJはIBSI参照値から著しい逸脱なく特徴量計算を実行できることが示されました。RadiomicsJは、ラジオミクス研究の効率を高める新しい研究ツールとなるだけでなく、オープンソースプログラムとして公開されることで、医療画像特徴量研究のための知識資源としても貢献することが期待されます。ソースコード、ImageJプラグイン、および例はすべてGitHubで公開されています。
用語集
- ラジオミクス: 医療画像から疾患の情報を定量的に抽出し、分子生物学的な特徴として捉える研究手法。
- 特徴量: 画像の特定の特性を数値化したデータ。
- オープンソース: プログラムのソースコードが一般に公開され、誰もが自由に使用、修正、配布できること。
- ImageJ: 生体医科学分野で広く使われているオープンソースの画像処理ソフトウェア。
- ROI (Region of Interest): 医療画像中で分析対象となる特定の領域。
- リサンプリング: 画像のピクセル(またはボクセル)サイズを均一化するため、画像を再構築する処理。
- 範囲フィルタリング: 画像の輝度値が特定の範囲内にあるピクセルのみを残す処理。
- 外れ値フィルタリング: 画像データから異常に高いまたは低い輝度値を持つピクセルを除外する処理。
- IBSI (Image Biomarker Standardization Initiative): 画像バイオマーカーの標準化を目指す国際的な取り組み。
- GLCM (Gray-Level Co-occurrence Matrix): 画像のテクスチャを表現する特徴量の一つで、隣接するピクセルの輝度値の共起関係を示す行列。
- GLRLM (Gray-Level Run Length Matrix): 画像のテクスチャを表現する特徴量の一つで、特定の輝度値が連続する長さの分布を示す行列。
- ROC-AUC (Receiver Operating Characteristic – Area Under the Curve): 分類モデルの性能を評価する指標の一つで、曲線下面積が高いほど性能が良いとされる。
- Skewness (歪度): データセットの分布の非対称性を示す統計量。
- 1p/19q共欠失: 脳腫瘍の一種である乏突起膠腫でしばしば見られる染色体異常。
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