AIによる乳房密度評価:乳がん検診における可能性と課題

解説対象論文: Mammographic density assessment by an artificial intelligence model for breast cancer detection in BreastScreen Norway
European Radiology|被引用数: 0(2026年8月15日時点)
ノルウェーの乳がん検診プログラムBreastScreen Norwayから得られた20万件のマンモグラフィ検査データを対象に、人工知能(AI)モデルによる乳房密度評価と悪性度リスクスコアの有用性を探る研究が実施されました。本研究は、AIが生成する乳房密度と乳がん検出能力が、マンモグラフィ機器のベンダーや乳房レベル・検査レベルといった要因によってどのように異なるかを詳細に分析し、AIのスクリーニングプログラムへの導入における重要な考慮事項を提示しています。
はじめに:乳房密度とAIの役割
どうも、Beyond the Pixelです。マンモグラフィによる乳がん検診において、乳腺組織の密度が高い「高濃度乳房」の女性は、脂肪の多い乳房の女性に比べてスクリーニングの感度が低いことが知られています。これは、高密度な乳腺組織ががん病変を隠してしまう「マスキング効果」が原因です。このような背景から、個々の女性のリスクプロファイルに基づいた、より個別化されたスクリーニングアプローチが求められています。近年、人工知能(AI)モデルが、乳房密度の自動評価や乳がん検出における放射線専門家のサポートに貢献する可能性が示唆されています。従来の乳房密度評価は専門家による主観的なものであり、専門家間の評価の一貫性が課題でした。AIによる自動評価は、この課題を解決し、リスクモデルや個別化されたスクリーニング推奨の一貫性を向上させることが期待されています。本研究は、AIモデルが生成する乳房密度評価と悪性度リスクスコアが、マンモグラフィ機器のベンダーによってどのように異なるか、また、乳房レベルと検査レベルでの評価の違いについても検討しました。
研究の概要:20万件のマンモグラフィをAIで解析
本研究は、ノルウェーの集団ベース乳がん検診プログラム「BreastScreen Norway」における2010年から2021年までの20万件のスクリーニング検査データを含む、後向きコホート研究です。研究対象となったのは、Hologic社製機器を用いた10万件の検査と、Siemens社製機器を用いた10万件の検査です。

これらの画像データは、商用のAIモデルであるTranspara(バージョン2.1、ScreenPoint Medical BV)を用いて分析されました。AIモデルは、連続的なボリューム乳房密度(VBD)評価と、乳がん検出のための連続的なAIリスクスコアを生成しました。AIモデルから得られた連続的なVBDの出力は、VBD 1から4の4つのグループに分類されました。これは、過去の研究の分布に基づき、VBD 1(15%)、VBD 2(40%)、VBD 3(40%)、VBD 4(5%)という割合で割り当てられました。乳がん検出の性能は、ROC曲線下面積(AUC)という指標を用いて評価されました。分析は、検査レベル(両乳房で最も高密度な値を採用)と乳房レベル(左右それぞれの乳房)の両方で実施されました。スクリーニングで発見されたがんは、さらなる評価のためにリコールされた後に診断された浸潤性乳がんまたは非浸潤性乳管がん(DCIS)と定義され、中間期がんは、陰性スクリーニング検査後24ヶ月以内、または偽陽性スクリーニング結果後6~24ヶ月以内に診断された浸潤性乳がんまたはDCISと定義されました。
主要な発見:AIの性能、密度分布の変動
本研究では、全検査20万件中、スクリーニングで発見されたがんの割合は1000件あたり6.2件(1235件)、中間期がんの割合は1000件あたり1.8件(368件)でした。

AIモデルによる乳がん検出の全体的な性能を示すAUCは、スクリーニングで発見されたがんと中間期がんの両方を含む全がん症例の場合で0.917、スクリーニングで発見されたがんのみの場合で0.972と、非常に高い値を示しました。
検査レベルでは、VBDグループ間でのAUC推定値の差は統計的に有意でした。乳房密度の低いVBD 1グループで最も高いAUC(0.955)が観察され、乳房密度の最も高いVBD 4グループでは最も低いAUC(0.857)が観察されました。この結果は、乳房密度が高くなるにつれてAIモデルの性能が低下する可能性を示唆しています。

しかし、スクリーニングで発見されたがんのみを対象とした場合、VBDグループ間のAUCの差は統計的に有意ではありませんでした。

これは、AIモデルがスクリーニングで発見されやすいがんに対しては、乳房密度にかかわらず一貫した高い性能を示すことを意味している可能性があります。

検査レベルのVBD 1-4の分布は、マンモグラフィ機器のベンダーによって異なりました。Siemens社製機器では、3.3%の検査がVBD 4に分類されたのに対し、Hologic社製機器では6.7%がVBD 4に分類されました。これは、ベンダー間で高濃度乳房の分類割合に約2倍の差があることを示しています。この違いは、各ベンダーの画像処理特性や、使用された地域(Hologicは都市部、Siemensは農村部)の対象者集団の特性(都市化と乳房密度の関連性)に起因する可能性が考えられます。(表1)
乳房レベルで左右の乳房のVBDグループを比較したところ、全検査の18.5%(約5分の1)で異なるVBDグループに分類されました。

これは、左右の乳房で密度が異なるケースが少なくないことを示しており、個別の乳房ごとに密度評価を行うことの重要性を示唆しています。AIリスクスコア10(最高リスク)が割り当てられた検査の割合は、VBD 1で8.1%、VBD 2で9.8%、VBD 3で10.1%、VBD 4で10.7%でした。スクリーニングで発見されたがんのうち、AIリスクスコアが10であった割合は、VBDグループにかかわらず非常に高く、VBD 1で86.7%、VBD 2で92.7%、VBD 3で94.6%、VBD 4で93.3%でした。

一方、中間期がんでは、AIリスクスコアが10であった割合はVBD 1で33.3%、VBD 2で41.1%、VBD 3で39.5%、VBD 4で38.7%と、スクリーニングで発見されたがんより低い傾向が見られました。ベンダー別に見た場合、Siemens社製機器でVBD 4の検査のうち14.2%がAIリスクスコア10と評価されたのに対し、Hologic社製機器では8.9%でした。

考察と結論:AI導入に向けた今後の課題
本研究の結果は、AIモデルによる自動乳房密度評価が高いAUC値を示す一方で、その性能は乳房密度の増加とともに低下する可能性(全がん症例の場合)があることを示しました。特に、マンモグラフィ機器のベンダーによって乳房密度分類の分布に有意な差が見られたことは、AIをリスク層別化されたスクリーニングプログラムに導入する上で重要な考慮事項です。異なるベンダー間で高濃度乳房の分類割合が異なることは、閾値の調整が必要であることを示唆しています。また、左右の乳房で異なるVBDグループが割り当てられるケースが約5分の1に上ったことは、個々の乳房レベルでの詳細な評価の必要性を示唆しています。片方の乳房の密度変化は、早期がんの兆候である可能性も考慮すべきです。AIモデルの連続的なボリューム密度スコアは、リスクスコアと比較して識別性能が著しく低いことが示されており、乳房密度のみをリスク層別化に用いることの限界も浮き彫りになりました。
この研究の主な強みは、ノルウェー全土の複数の乳房センターと異なるマンモグラフィベンダーから得られた膨大な数のスクリーニング検査データを用いたことです。一方で、対象者のBMIや生殖因子、ライフスタイルなどの詳細な個人情報が不足している点は限界として挙げられます。これらの要素は乳房密度に影響を与える可能性があるため、今後の研究で考慮されるべきです。
結論として、AIモデルによる自動乳房密度測定は将来性があるものの、スクリーニングプログラムに導入する前に、ベンダー間の密度校正や、個々の乳房と検査レベルでの評価の調整など、いくつかの要因を慎重に検討する必要があることが示されました。本研究の知見は、他のスクリーニング設定やプログラムでも検証され、AIとマンモグラフィ機器ベンダーの違いが密度分布に及ぼす影響をさらに深く理解することが求められます。
用語集
- AIモデル: 人工知能(Artificial Intelligence)を用いたコンピュータプログラムで、ここではマンモグラフィ画像を解析し、乳房密度や乳がんのリスクを自動で評価します。
- 高濃度乳房: 乳房の大部分が乳腺組織で構成されており、マンモグラフィ画像で白く写るため、がん病変が見つけにくい乳房の状態です。
- 感度: 疾患を持つ対象者を正しく疾患ありと判定する割合を示す指標です。乳がん検診においては、乳がんを見つけ出す能力を指します。
- マスキング効果: 高濃度乳房において、乳腺組織ががん病変と似たように白く写ることで、がん病変が隠されてしまう現象です。
- ボリューム乳房密度 (VBD): 乳房の総体積に対する乳腺組織の体積の割合を定量的に示したものです。AIによって自動で算出されます。
- ROC曲線下面積 (AUC): 診断モデルや検査の識別能力を示す指標で、0.5(ランダムな予測)から1.0(完璧な予測)までの値をとります。値が大きいほど性能が良いことを意味します。
- スクリーニングで発見されたがん: 定期的な検診(スクリーニング)で見つかり、その後の精密検査で診断されたがんです。
- 中間期がん: 前回のスクリーニング検査では異常なしと判定されたものの、次回の定期検診までの間に発見されたがんです。
- 乳房レベル: 左右それぞれの乳房を個別に評価することです。
- 検査レベル: 両方の乳房の検査結果を総合して、1回の検査全体として評価することです。本研究では、左右の乳房のうち高密度な方を採用しました。
- マンモグラフィ機器ベンダー: マンモグラフィ撮影装置を製造・提供する企業のことです。本研究ではHologic社とSiemens社の機器が用いられました。
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