手術中の低心拍出量リスクを簡便にスクリーニング:LCIスコアの登場

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解説対象論文: Development and internal validation of the Low Cardiac Index Score: a simplified bedside tool for continuous intraoperative screening
Journal of Clinical Monitoring and Computing|被引用数: 0(2026年8月19日時点)

メジャーな手術中における心拍出量のリアルタイムな評価は、対象者の組織への適切な血流維持に不可欠ですが、これまでの高度なモニタリング技術は限られたハイリスクな症例にしか適用されていませんでした。多くの対象者が、手術中に低心拍出量となるリスクを見過ごされる可能性がありました。この課題に対し、日常的に利用可能なパラメータを用いて、低心拍出量を持続的かつリアルタイムでスクリーニングするための簡便なツール、「Low Cardiac Index (LCI) スコア」が開発されました。

研究サマリー(FINER & PICO)
Feasible実施可能性 日常的に利用可能なパラメータのみを使用し、特殊な機器や専門知識が不要であるため、実現可能性が高い。
Ethical倫理面 後ろ向き研究であり、研究同意は免除されたため、対象者の負担を最小限に抑え倫理的である。
Interesting面白さ 手術中の心拍出量モニタリングにおける既存のギャップを埋める、臨床的に興味深いツールである。
Novel新規性 既存の臨床ツールでは対応できなかった、手術中の低心拍出量スクリーニングという新しいニッチを埋める。
Relevant切実さ 手術中の組織灌流を最適化し、合併症リスク低減に寄与する可能性があり、臨床的関連性が高い。
Measurable測定可能性 低心拍出量は客観的なPCCIのしきい値で定義され、スコア性能も定量的に評価可能である。
Modifiable派生・改善 リアルタイムで低心拍出量のリスクを提示するため、早期介入や循環管理戦略の調整を促す。
Structured文章構造 5つの単純なパラメータからなる明確な計算式で、機械学習に基づき構造化されている。
PICO / PECO対象・介入・比較・結果 P:メジャーな腹部手術中の成人対象者、I:LCIスコアによる継続的スクリーニング、C:高度モニタリングなしの標準ケア、O:低心拍出量の早期検出。

はじめに:なぜ心拍出量モニタリングが重要なのか

どうも、Beyond the Pixelです。メジャーな手術では、対象者の体中の組織へ十分な血液が送られているか(これを「組織灌流」と呼びます)を確保するために、適切な心臓の拍出量(心拍出量)を維持することが極めて重要です。心拍出量が低下すると、組織への血流が不足し、臓器機能の障害や死亡リスクの増加につながる可能性があります。しかし、これまで心拍出量を直接、継続的に測定するには、特殊な機器と専門知識が必要であり、使用できるのはごく一部のハイリスクな対象者に限られていました。その結果、多くの手術対象者は、リアルタイムで心拍出量の状態を把握できず、低心拍出量の状態を見逃してしまう可能性がありました。本研究は、この課題を解決するため、日常的に得られるデータを使って、手術中に低心拍出量を継続的にスクリーニングできる「Low Cardiac Index (LCI) スコア」を開発し、その有用性を内部検証することを目的としました。このスコアは、動脈カテーテルを挿入しているものの、高度な心拍出量モニタリングを受けていない機械換気中の対象者において、低心拍出量を「除外する」ツールとして設計されています。

LCIスコアの開発方法:日常データと機械学習の融合

本研究は、2023年1月から2026年2月にかけて、高度な血行動態モニタリングを受けてメジャーな腹部手術を受けた成人対象者のレトロスペクティブな単施設研究として実施されました。低心拍出量は、パルス輪郭心係数(PCCI)が2.2 L/min/m^2未満と定義されました。分析コホートは136名の対象者と42,346の時系列データポイントから構成され、低心拍出量の発生率は15.5%でした。データセットは、対象者レベルで80%がトレーニングセット、20%がテストセットに分割されました。LCIスコアの開発プロセスでは、まずSHAP(SHapley Additive exPlanations)値という機械学習の解釈方法を用いて、12の候補変数の中から影響度の高い上位5つの特徴量(心拍数HR、拡張期血圧DBP、脈圧変動PPV、収縮期血圧SBP、年齢Age)が選択されました。

Figure 2
Figure 2. Fig. 2 SHAP feature importance for the 12 candidate variables. Each dot represents a single timepoint; horizontal position indicates the con­ tribution to the predicted risk of low cardiac index, and colour repre­ sents the original feature value (yellow = high, purple = low). Features are ordered by mean absolute SHAP value. The top five features (HR, DBP, PPV, SBP, Age) were selected for final model development. For解説: この図は、12の候補変数それぞれが低心拍出量リスクの予測にどの程度寄与しているか(SHAP値)を示しています。各点は個々の時系列データポイントを表し、横軸は予測リスクへの寄与度、色は元の特徴量値(黄色が高い、紫が低い)を表します。心拍数(HR)、拡張期血圧(DBP)、脈圧変動(PPV)、収縮期血圧(SBP)、年齢(Age)が平均絶対SHAP値で上位5つを占め、最終的なモデル開発に選択されました。

。これらの特徴量を用いて一般化線形混合モデルが構築され、整数に重み付けされたLCIスコアが導出されました。スコアは「LCIスコア = 57 + (2 × DBP) + (0.5 × Age) + PPV – HR – SBP」という計算式で表されます。これは、低いLCIスコアが低心拍出量の可能性が低いことを示す「除外ツール」として機能するよう、感度が0.90以上となるしきい値「30」が設定されました。

LCIスコアの性能と臨床的意義

LCIスコアは、テストセットにおいて良好な判別能を示しました。ROC曲線下面積(AUROC)は0.84(95%信頼区間 0.75, 0.91)を達成しました。

Figure 3
Figure 3. Fig. 3 Discriminative performance and score distribution of the LCI score. (A) Receiver operating characteristic curve evaluated on the test set (28 patients, 8,418 timepoints); dashed diagonal line represents chance-level discrimination. The shaded band represents the pointwise 95% confidence interval for sensitivity, derived from patient-level cluster bootstrap resampling (1,000 iterations). (B) Density distribu­解説: この図は、LCIスコアの判別性能とスコア分布を示しています。(A)はテストセットで評価された受信者操作特性(ROC)曲線で、LCIスコアのAUROCは0.84(95% CI 0.75, 0.91)でした。(B)は、測定されたPCCI(低心拍出量とそうでない場合)によって層別化されたテストセットにおけるLCIスコア値の密度分布を示しており、スクリーニングしきい値の30が破線で示されています。

。しきい値30を用いた場合、感度0.92(0.80, 0.99)、陰性的中率0.97(0.92, 1.00)という高い値を示しました。これは、スコアが30未満であれば、97%の確率で低心拍出量ではないと除外できることを意味します。このスコアの性能は、20回のランダムなデータ分割においても安定しており、個々の血行動態パラメータ単独よりも優れた性能を発揮しました。

Table 2
Table 2. Table 2 Performance of the LCI Score on the Test Set – Point Estimate (95% Confi­ dence Interval) AUROC 0.84 (0.75, 0.91) AUPRC 0.58 (0.35, 0.72) Sensitivity 0.92 (0.80, 0.99) Specificity 0.53 (0.39, 0.65) Positive predictive value 0.31 (0.18, 0.42) Negative predictive value 0.97 (0.92, 1.00) Brier score 0.12 (0.07, 0.17) Confidence intervals derived from 1,000 patient-level cluster boot­ strap resamples of the test set (28 patients, 8,418 timepoints). The LCI score threshold (≥ 30) was derived from the training set to achieve sensitivity ≥ 0.90, then applied to the test set without modification. AUROC, area under the receiver operating characteristic curve; AUPRC, area under the precision-recall curve; LCI, low cardiac index解説: この表は、テストセットにおけるLCIスコアの性能評価指標をまとめたものです。AUROCは0.84、AUPRCは0.58でした。スクリーニングしきい値30を用いると、感度0.92、特異度0.53、陽性的中率0.31、陰性的中率0.97を達成しました。Brierスコアは0.12でした。

。対象者のベースライン特性と術中の血行動態パラメータの詳細は、

Table 1
Table 1. Table 1 Baseline Characteristics and Intraoperative Haemodynamic Parameters – Result Baseline characteristics Patients, n 136 Age, yr 60.8 [52.3 to 70.4] Male sex 69 (50.7%) BMI, kg.m− 2 25.4 [22.7 to 28.9] BSA, m2 1.8 [1.7 to 2] ASA physical status Class II 30 (22.1%) Class III 60 (44.1%) Class IV 44 (32.4%) Class V 2 (1.5%) Emergency surgery 11 (8.1%) OR duration, hours 7.6 [6.4 to 8.5] Surgery type CRS ± HIPEC 43 (31.6%) Liver transplant 38 (27.9%) Whipple 30 (22.1%) Hepatectomy 16 (11.8%) Others 9 (6.6%) Intraoperative haemodynamic parameters Timepoints, n 42,346 PCCI, l.min− 1.m− 2 2.8 [2.3 to 3.6] Timepoints with low CI 6,558 (15.5%) HR, bpm 75 [65 to 88] SBP, mmHg 104 [93 to 117] DBP, mmHg 57 [50 to 65] PPV, % 9 [6 to 15] PPI 2.9 [1.3 to 5.2] SpO2, % 100 [99 to 100] EtCO2, mmHg 34 [32 to 37] Data are presented as median [IQR] or n (%). Low CI was defined as PCCI < 2.2 l.min− 1.m− 2. Other surgeries include oesophagectomy, colectomy, gastrectomy, anterior resection, kidney transplant, and combined pancreas-kidney transplant. ASA, American Society of Anesthesiologists; BMI, body mass index; BSA, body surface area; CI, cardiac index; CRS, cytoreductive surgery; DBP, diastolic blood pressure; EtCO2, end-tidal carbon dioxide; HIPEC, hyperthermic intraperitoneal chemotherapy; HR, heart rate; IQR, interquartile range; OR, operating room; PCCI, pulse contour cardiac index; PPI, peripheral perfusion index; PPV, pulse pressure variation; SBP, sys­ tolic blood pressure; SpO2, peripheral oxygen saturation解説: この表は、研究対象者のベースライン特性と術中の血行動態パラメータの要約です。136名の対象者について、年齢中央値は60.8歳、男性が50.7%でした。総計42,346の時系列データポイントのうち、低心拍出量は6,558ポイント(15.5%)で観察されました。心拍数、収縮期血圧、拡張期血圧、脈圧変動など、主な血行動態パラメータの中央値も示されています。

に示されています。年齢中央値は60.8歳、男性が50.7%を占めていました。このLCIスコアの臨床的な意義は非常に大きいです。平均動脈圧(MAP)は心拍出量と臨床的に有意な相関を示さないことが知られており、血圧単独では心拍出量の代替にはなりません。LCIスコアは、標準的な麻酔モニターに表示されるデータ(動脈カテーテルがあれば)のみで、低心拍出量の継続的なスクリーニングを可能にします。これにより、高度なモニタリングがない対象者においても、血行動態の異常が低心拍出量によるものかどうかを高い確信度で判断できるようになります。スコアがしきい値を下回る場合は低心拍出量の可能性が低いと判断でき、過度な介入を避けることにもつながります。

研究の限界と今後の展望

本研究は重要な成果をもたらしましたが、いくつかの限界も考慮する必要があります。第一に、本研究は単一施設における後ろ向き研究であるため、他の医療施設や異なる対象者集団での外部検証が不可欠です。第二に、心拍出量のゴールデンスタンダードとして様々なモニタリングプラットフォームから得られたPCCIが使用されましたが、これらのデバイス間には測定誤差が存在する可能性があり、LCIスコアが各デバイスで同等に機能するかはさらなる評価が必要です。第三に、低心拍出量の定義としてPCCI < 2.2 L/min/m^2が採用されましたが、非心臓手術の対象者においてこのしきい値が転帰と直接関連するかはまだ明確ではありません。今後の展望として、LCIスコアの外部検証と、臨床転帰に対する影響を評価する前向き研究が求められます。また、現在は二値分類(低リスク/高リスク)のツールですが、連続的な心拍出量推定器としての開発も自然な拡張であり、検討に値します。低急性度設定での評価も必要です。

結論

LCIスコアは、メジャーな腹部手術中に日常的に利用可能な血行動態パラメータを用いて低心拍出量を信頼性高くスクリーニングする、簡便な5変数のベッドサイドツールです。その高い陰性的中率は、「除外ツール」としての戦略を裏付け、しきい値以下であれば低心拍出量が起こる可能性が低いという確信を提供します。

用語集

  • 心拍出量 (Cardiac Index, CI): 単位体表面積あたりの心臓が1分間に送り出す血液量を示す指標。
  • 低心拍出量 (Low Cardiac Index): 組織灌流が不十分となるリスクがある心拍出量の低下した状態。
  • パルス輪郭心係数 (Pulse Contour Cardiac Index, PCCI): 動脈圧波形から心拍出量を推定するモニタリング技術で得られる心係数。
  • 血行動態モニタリング (Haemodynamic Monitoring): 心臓や血管系の機能(血圧、心拍出量など)を継続的に監視すること。
  • SHAP (SHapley Additive exPlanations): 機械学習モデルの予測において、各特徴量がどの程度寄与しているかを説明する手法。
  • GLMM (Generalised Linear Mixed Model): 複数の要因と反復測定データを考慮して、結果変数を予測するための統計モデル。
  • AUROC (Area Under the Receiver Operating Characteristic Curve): 診断モデルの判別能力を示す指標で、値が高いほど予測性能が良い。
  • 感度 (Sensitivity): 実際に低心拍出量である対象者のうち、スコアが正しく「低心拍出量である」と判定する割合。
  • 陰性的中率 (Negative Predictive Value, NPV): スコアが「低心拍出量ではない」と判定した対象者のうち、実際に低心拍出量ではない割合。
  • 除外ツール (Rule-out Tool): 疾患や状態の可能性を安全に排除するために使用される診断ツール。
  • DBP (Diastolic Blood Pressure): 拡張期血圧。心臓が拡張して血液を取り込んでいるときの血管内の最低血圧。
  • SBP (Systolic Blood Pressure): 収縮期血圧。心臓が収縮して血液を送り出しているときの血管内の最高血圧。
  • HR (Heart Rate): 心拍数。1分間あたりの心臓の拍動回数。
  • PPV (Pulse Pressure Variation): 呼吸に伴う収縮期血圧の変動幅。循環血液量反応性(輸液反応性)の指標となる。
  • MAP (Mean Arterial Pressure): 平均動脈圧。1拍動あたりの平均的な動脈圧。
  • ゴールデンスタンダード (Golden Standard): ある疾患や状態を診断する上で、最も信頼性が高く、比較基準とされる方法。
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