転移性褐色細胞腫・パラガングリオーマに対するPRRT:新規拮抗薬JR11の可能性

解説対象論文: Radiolabelled somatostatin receptor antagonist versus agonist for peptide receptor radionuclide therapy in patients with metastatic pheochromocytoma or paraganglioma: a retrospective pilot study
European Journal of Nuclear Medicine and Molecular Imaging|被引用数: 0(2026年8月13日時点)
転移性褐色細胞腫やパラガングリオーマ(mPPGLs)は、治療選択肢が限られている希少な神経内分泌腫瘍です。この課題に対し、ソマトスタチン受容体(SSTR)を標的としたペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)が注目されています。本記事では、従来の治療に抵抗性を示すmPPGLsの対象者を対象に、標準的なSSTR作動薬[177Lu]Lu-DOTA-TOCと新規SSTR拮抗薬[177Lu]Lu-DOTA-JR11を同一対象者で比較したパイロット研究を紹介します。この研究は、[177Lu]Lu-DOTA-JR11が腫瘍への吸収線量を高め、無増悪生存期間の延長と関連する可能性を示唆しており、新たな治療アプローチへの期待が高まります。
はじめに:転移性褐色細胞腫・パラガングリオーマ(mPPGLs)の現状
どうも、Beyond the Pixelです。転移性褐色細胞腫およびパラガングリオーマ(mPPGLs)は、副腎髄質や神経節に発生するまれな神経内分泌腫瘍で、他の臓器へ転移した状態を指します。これらの疾患は治療選択肢が限られており、新たなアプローチが常に求められています。神経内分泌腫瘍は、細胞表面に存在するソマトスタチン受容体(SSTR)を過剰に発現していることが知られています。この特性を利用した治療法として、放射性核種を用いた診断と治療を組み合わせる「テラノスティクス」、特にペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)がこの10年で注目を集めています。2006年、Ginjらの研究で、SSTR作動薬よりもSSTR拮抗薬の方が腫瘍細胞への結合部位が多く、治療効果が高まる可能性が初めて示唆されました。実際にこれまでの研究では、[177Lu]Lu-DOTA-JR11のようなSSTR2拮抗薬が、標準的なSSTR作動薬と比較して腫瘍への結合性が高く、DNA二本鎖切断をより多く引き起こすことが報告されています。しかし、mPPGLsの対象者におけるPRRTの効果に関するデータはまだ少なく、特にSSTR作動薬と拮抗薬の線量測定を同一の対象者内で直接比較した臨床研究はこれまでありませんでした。本研究は、従来の治療法に効果が見られなかったmPPGLsの対象者において、標準的なSSTR作動薬である[177Lu]Lu-DOTA-TOCと新規のSSTR拮抗薬[177Lu]Lu-DOTA-JR11の腫瘍および主要臓器への吸収線量を比較することを目的としました。さらに、[177Lu]Lu-DOTA-JR11の安全性と予備的な臨床効果も副次評価項目として評価されました。
研究デザインと方法:過去の経験に基づく比較研究
本研究は、従来の治療法に抵抗性を示す転移性褐色細胞腫またはパラガングリオーマ(mPPGLs)を有する6名の対象者を対象とした、後ろ向きの探索的な同一対象者内比較試験です。主要な組み入れ基準として、病理学的および画像診断で転移性PHEOまたはPGLが確認されていること、RECIST 1.1(固形がんの治療効果を評価する国際的な基準)に基づく放射線学的進行性疾患であること、従来の治療に反応しないこと、測定可能な腫瘍が存在すること、そして[68Ga]Ga-DOTA-TOC/-TATE PET/CTでソマトスタチン受容体が陽性であることが挙げられました。対象者は、まず[177Lu]Lu-DOTA-TOC(放射性ルテチウム177で標識されたソマトスタチン受容体作動薬)を1〜2サイクル(約7.4 GBq/サイクル)投与され、その後10〜12週間の間隔で[177Lu]Lu-DOTA-JR11(放射性ルテチウム177で標識されたソマトスタチン受容体拮抗薬)を1〜2サイクル(体表面積あたり2 GBq/m2)投与されました。この治療順序は、[177Lu]Lu-DOTA-TOCを標準的なSSTR作動薬の参照として、同一対象者内で線量測定を比較するために選択されました。腎臓保護のため、すべての放射性標識ペプチド投与時には、リジンとアルギニンを含む生理食塩水溶液の静脈内注入が実施されました。評価項目には、腫瘍および臓器の吸収線量(放射線が組織に与えるエネルギー量)の推定、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v5.0(有害事象の重症度を分類する基準)に基づく安全性評価、症状の評価、および[177Lu]Lu-DOTA-JR11治療前後の無増悪生存期間(PFS:病状が悪化せずに生存している期間)の評価が含まれました。線量測定はOLINDA 1.0というソフトウェアを用いて計算され、腫瘍病変の吸収線量は球体モデルに基づいて推定されました。安全性は治療中および治療後6週間までの有害事象を評価し、有効性はPFSや放射線学的フォローアップなどによって評価されました。
結果:JR11が腫瘍への線量を増加させ、PFS延長と関連
本研究の同一対象者内比較では、注目すべき結果が示されました。まず、線量測定の比較では、[177Lu]Lu-DOTA-JR11を用いた場合の1サイクルあたりの腫瘍吸収線量の中央値が、[177Lu]Lu-DOTA-TOCよりも1.3倍高いことが明らかになりました(範囲は0.9〜3.5倍)。

この結果は、SSTR拮抗薬である[177Lu]Lu-DOTA-JR11が、腫瘍により多くの放射線エネルギーを届ける可能性を示唆しています。また、腫瘍と腎臓の線量比、および腫瘍と脾臓の線量比も[177Lu]Lu-DOTA-JR11の方が良好で、それぞれ[177Lu]Lu-DOTA-TOCと比較して1.5倍(範囲0.4〜3.9倍)、2.1倍(範囲1.9〜2.3倍)高かったです。これは、腫瘍への放射線集中度が高く、同時に主要臓器への影響が相対的に少ない可能性を示しています。一方、腫瘍と骨髄の線量比の中央値は、両化合物で同程度でした。治療後のSPECT画像でも、[177Lu]Lu-DOTA-TOCと比較して[177Lu]Lu-DOTA-JR11で腫瘍への取り込みが視覚的に顕著に確認されました。

有効性の面では、[177Lu]Lu-DOTA-JR11治療開始後の無増悪生存期間(PFS)の中央値は12.5ヶ月(個別のPFS値は6, 12, 12, 13, 17ヶ月で、1名の対象者は24ヶ月超で打ち切り)でした。これは、研究組み入れ前の最終治療ラインでのPFS中央値3.5ヶ月(範囲1〜9ヶ月)と比較して延長していることを示しています。機能性腫瘍(ホルモンを過剰分泌する腫瘍)を持つ3名の対象者のうち2名は、治療後にアドレナリン作動性症状がコントロールされました。なお、研究組み入れ前の[177Lu]Lu-DOTA-TOC治療歴のある3名の対象者では、その治療後のPFS中央値は9ヶ月でした。

安全性と忍容性については、重篤なグレード4または5の有害事象は観察されませんでした。最も重篤な有害事象は1名の対象者に見られたグレード3のリンパ球減少症(血液中のリンパ球の減少)でしたが、これは可逆的でした。血小板減少症、好中球減少症、クレアチニン上昇、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)上昇は、いずれの対象者にも認められませんでした。その他の治療によって生じた有害事象(TEAEs)としては、グレード1〜2のリンパ球減少症、貧血、低アルブミン血症、腹痛、悪心、便秘、低血圧、無力症、めまい、口腔乾燥症などが報告されましたが、ほとんどが可逆的であることが確認されています。治療開始から18ヶ月後まで、腎機能の悪化や骨髄異形成症候群、二次性悪性腫瘍の証拠は観察されませんでした。
考察:JR11の高い腫瘍線量と安全性
本研究は、従来の治療法に抵抗性のmPPGLsの対象者において、SSTR2拮抗薬[177Lu]Lu-DOTA-JR11によるPRRTの有効性を評価し、同一対象者内で標準PRRT([177Lu]Lu-DOTA-TOC)との腫瘍および臓器吸収線量を比較した初の研究です。主な発見は、[177Lu]Lu-DOTA-JR11が[177Lu]Lu-DOTA-TOCよりも腫瘍への吸収線量を1.3倍増加させたことです。同時に、骨髄や腎臓といった線量制限臓器における吸収線量は同程度でした。これは、[177Lu]Lu-DOTA-JR11が腫瘍に対する選択性を高めつつ、重要な臓器への負担を抑える可能性を示唆しています。また、[177Lu]Lu-DOTA-JR11治療後の無増悪生存期間(PFS)の中央値が12.5ヶ月と、治療前のPFS中央値3.5ヶ月と比較して延長したことは、探索的ながら臨床的な有用性を示すシグナルであると言えます。しかし、すべての対象者が[177Lu]Lu-DOTA-JR11の直前に[177Lu]Lu-DOTA-TOCを受けているため、[177Lu]Lu-DOTA-TOC治療の効果が持ち越された可能性も考慮する必要があり、有効性に関する結論は慎重に解釈されるべきです。本研究のコホートで観察された血液学的および全体的な毒性は、先行研究で報告されている[177Lu]Lu-DOTA-JR11の毒性よりも低い傾向にありました。これは、体表面積に応じて投与量を調整する個別化された治療アプローチ(体表面積あたり2 GBq/m2)が採用されたことや、治療サイクル数が限られていたこと(中央値1サイクル)に起因する可能性が高いと考えられます。投与活動量と骨髄吸収線量の間には確立された関係があるため、本研究での活動量削減が骨髄への照射量を減らし、その結果として血液学的毒性の低減につながったと推測されます。腎臓毒性についても、1サイクルあたりの腎臓吸収線量中央値が低く、腫瘍と腎臓の吸収線量比が[177Lu]Lu-DOTA-TOCと比較して約1.5倍高かったことから、発生の可能性は低いと考えられます。
研究の限界と今後の展望
本研究にはいくつかの限界があります。第一に、対象者数が6名と少ないため、今回の結果をより広範な対象者集団に一般化する際には注意が必要です。また、治療後の無増悪生存期間(PFS)については、一部の対象者でデータが打ち切られたこともあり、正式な統計的比較は行われておらず、結果は記述的なものとして報告されています。第二に、すべての対象者が[177Lu]Lu-DOTA-JR11投与の10〜12週間前に少なくとも1サイクル(2名の対象者は2サイクル)の[177Lu]Lu-DOTA-TOCを受けていました。このため、[177Lu]Lu-DOTA-JR11単独のPFSを過大評価している可能性や、直前の[177Lu]Lu-DOTA-TOC治療による効果の持ち越し効果が排除できないため、[177Lu]Lu-DOTA-JR11単独の有効性の帰属は限定的です。さらに、4番目の対象者はPRRTサイクルの間にスニチニブと放射線治療を受けており、この対象者における治療効果の帰属はさらに限定されます。第三に、本研究は後ろ向きの検討であり、多分野の腫瘍委員会による個別化されたアプローチに基づいているため、治療サイクル数も個別化されています。これは実世界の治療アプローチを反映しているとも言えます。第四に、ホルモンマーカーは測定時期が一貫していなかったため、意義のある解釈ができないと判断され、分析には含まれませんでした。これらの限界があるものの、[177Lu]Lu-DOTA-JR11が[177Lu]Lu-DOTA-TOCと比較して高い腫瘍吸収線量を示し、無増悪生存期間の延長と関連し、良好な忍容性を示したという予備的な結果は、非常に有望です。この結果は、mPPGLsの対象者における大規模な前向き研究で、[177Lu]Lu-DOTA-JR11のさらなる評価が必要であることを強く支持しています。
用語集
- 転移性褐色細胞腫・パラガングリオーマ (mPPGLs): 副腎髄質や神経節に発生するまれな神経内分泌腫瘍で、リンパ節や他臓器に転移したもの。
- 神経内分泌腫瘍: 神経細胞と内分泌細胞の両方の特徴を持つ腫瘍の総称。
- ソマトスタチン受容体 (SSTR): 神経内分泌腫瘍細胞の表面に多く存在する、ソマトスタチンというホルモンが結合する受容体。
- テラノスティクス: 診断(imaging)と治療(therapy)を一体として行う医療アプローチ。
- ペプチド受容体放射性核種療法 (PRRT): 腫瘍細胞表面の特定の受容体に結合する放射性標識ペプチドを用いて、腫瘍に集中的に放射線を照射する治療法。
- [177Lu]Lu-DOTA-TOC: 標準的なPRRTで用いられる放射性ルテチウム177で標識されたソマトスタチン受容体作動薬。
- [177Lu]Lu-DOTA-JR11: ソマトスタチン受容体に結合し、その作用を阻害する「拮抗薬」を放射性ルテチウム177で標識したもの。
- 吸収線量: 組織や臓器が放射線から受け取るエネルギーの量で、放射線の影響を評価する指標。
- 無増悪生存期間 (PFS): 治療後、病状が悪化せずに生存している期間。
- リンパ球減少症: 血液中のリンパ球(免疫細胞の一種)の数が減少すること。
- RECIST 1.1: 固形がんの治療効果を放射線画像に基づいて客観的に評価するための国際的な基準。
- 作動薬 (Agonist): 受容体に結合することで、生理的な反応や細胞の応答を引き起こす物質。
- 拮抗薬 (Antagonist): 受容体に結合するが、作動薬のような反応を引き起こさず、むしろ作動薬の結合を妨げ作用を抑制する物質。
- Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v5.0: 米国国立がん研究所(NCI)が発行する、がん治療における有害事象の程度を分類するための基準。
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