不整脈原性心筋症(ACM)の画像診断:タスクフォース基準からパドヴァ基準への進化

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解説対象論文: Imaging Features of Arrhythmogenic Cardiomyopathies
Radiographics|被引用数: 6(2026年8月25日時点)

不整脈原性心筋症(ACM)は、心筋が線維脂肪組織に置き換わり、重篤な不整脈や突然死を引き起こす遺伝性疾患です。診断基準は病態の理解とともに進化し、2010年タスクフォース基準から、左心室病変や両心室病変に対応した「パドヴァ基準」が新たに導入されました。心臓MRIが診断のゴールデンスタンダードとして重要性を増しており、特に遅延ガドリニウム増強効果(LGE)が注目されています。本記事では、この進化する診断基準と、心臓MRIによるACMの画像診断のポイント、そして鑑別診断の重要性について解説します。

研究サマリー(FINER & PICO)
Feasible実施可能性 心臓MRIの標準化された撮像・解析プロトコルと新しい診断基準により、実現可能性が高いです。
Ethical倫理面 本研究は、対象者の診断精度向上と予後改善に貢献する倫理的に意義深い内容です。
Interesting面白さ ACMの診断基準の進化は、心臓画像診断の専門家にとって非常に興味深いテーマです。
Novel新規性 パドヴァ基準は、特に左室優位型や両心室型ACMの診断基準を導入した点で新規性があります。
Relevant切実さ ACMは心臓突然死の原因となる重要疾患であり、その診断精度向上は臨床的に極めて関連性が高いです。
Measurable測定可能性 診断基準の適用により、各病型の診断精度と対象者の層別化が客観的に測定可能です。
Modifiable派生・改善 新しい診断基準の導入は、臨床現場での診断プロセスを修正し改善する可能性を秘めています。
Structured文章構造 疾患の定義、遺伝学的基盤、診断基準の歴史と進化、画像所見、鑑別診断が体系的に構成されています。
PICO / PECO対象・介入・比較・結果 PICOフレームワークでの記述は論文の特性上困難です。本論文は疾患の診断基準を網羅的に解説する総説であり、特定の介入や比較対照を評価するものではありません。

不整脈原性心筋症(ACM)の診断基準はどのように進化してきたのか

どうも、Beyond the Pixelです。
不整脈原性心筋症(Arrhythmogenic Cardiomyopathy; ACM)は、心筋が線維脂肪組織に置き換わる遺伝性疾患であり、心室性不整脈や突然死のリスクを高めます。かつては右心室に病変が集中すると考えられていましたが、現在では左心室や両心室にも影響を及ぼすことが認識されています。診断には心臓MRIなどの画像診断が極めて重要であり、その基準も病態理解の深化とともに進化してきました。今回は、ACMの画像診断における特徴、そして診断基準の変遷と今後の展望について、最新の知見を交えながら解説します。

不整脈原性心筋症(ACM)とは?

不整脈原性心筋症(ACM)は、心臓の心筋細胞が線維や脂肪組織に置き換わることで、心臓のポンプ機能が低下し、危険な不整脈を引き起こしやすくなる遺伝性の心疾患です。多くのACMは、細胞と細胞をつなぎ合わせる重要な接着複合体であるデスモソームを構成する遺伝子の病原性変異と関連しています。このデスモソームは心臓だけでなく皮膚組織にも存在するため、皮膚や髪の毛の異常を伴うこともあります。
ACMは当初、右心室(RV)に病変が優位に現れる疾患として記述されましたが、現在では左心室(LV)や両心室にも病変が及ぶことが知られています。この病態の進展に応じて、主に以下の3つの表現型(病気の現れ方)に分類されます。

  • 右室優位型(ARVC: Arrhythmogenic Right Ventricular Cardiomyopathy): 従来のARVCとして知られる、右心室に病変が優位なタイプで、左心室の異常は軽度か認められない場合です。
  • 左室優位型(ALVC: Arrhythmogenic Left Ventricular Cardiomyopathy): 左心室に病変が優位に現れ、右心室の異常は軽度か認められないタイプです。
  • 両心室型(Biventricular ACM): 右心室と左心室の両方に同様の病変が認められるタイプです。

これらの病型は、対象者の症状や画像所見に多様な現れ方をすることがあります。例えば、ALVCの対象者では、心電図異常やトロポニン上昇を伴う胸痛を繰り返し経験し、心筋炎や狭心症と誤診されることもあります。

ACM診断基準の進化:2010年タスクフォース基準からパドヴァ基準へ

ACMの診断は、その病態の複雑さから困難を伴うため、国際的な専門家により診断基準が設けられてきました。特に画像診断の進歩は、これらの基準に大きな影響を与えています。

2010年タスクフォース基準の概要と課題

2010年に改訂されたタスクフォース基準は、右室優位型ACM(ARVC)の診断を目的とした多因子アルゴリズムで、主要基準と副次基準に分かれています。これには、心エコー、心臓MRI、または右心室造影所見に基づく構造的基準、心内膜生検による組織特性評価、心電図所見、不整脈の特徴、家族歴などが含まれます。心臓MRIは、右心室のサイズ、機能、壁運動異常を評価するためのゴールデンスタンダードとされています。
例えば、運動中の失神で受診した58歳の女性のARVCの例では、心臓MRIにより右心室の心尖部自由壁に局所的な膨隆(異常運動)が認められ、さらに右心室の拡張と収縮機能の低下が確認されました。これらは2010年タスクフォース基準の画像基準の主要基準を満たし、遺伝子変異の検出と合わせて確定診断に至りました。

Figure 3
Figure 3. Figure 3. ARVC in a 58-year-old woman who presented with an episode of syncope while exercising on a treadmill. (A) Still frame from cine steady-state free precession (SSFP) cardiac MRI in the horizontal longitudi- nal axis plane shows a focal bulge of the apical segment of the RV free wall (arrow) during systole, consistent with dyskinesis. (B) Still frame from cine SSFP cardiac MRI in a short-axis plane shows RV dilatation (end-dia- stolic indexed volume, 128 mL/m2) with decreased systolic function (ejection fraction, 32%), therefore fulfill- ing one major 2010 task force imaging criterion. The patient was found to have a PKP2 gene variant, therefore satisfying two major criteria, consistent with a definite diagnosis of ARVC.解説: 58歳の女性のARVCの心臓MRI画像で、運動中に失神を経験しました。(A)シネSSFP心臓MRIの水平長軸像(静止画)では、右心室自由壁の心尖部セグメントに局所的な膨隆(矢印)が示され、異常運動と一致します。(B)シネSSFP心臓MRIの短軸像(静止画)では、右心室の拡張(体表面積で補正した拡張末期容量128mL/m2)と収縮機能の低下(駆出率32%)が示されており、2010年タスクフォース画像診断基準の主要基準を1つ満たしています。この対象者にはPKP2遺伝子変異が見つかり、2つの主要基準を満たしたことで、ARVCの確定診断となりました。

しかし、この基準にはいくつかの課題がありました。特に、左心室病変や両心室病変がACMの自然経過において早期から見られることが現代の理解で明らかになったにもかかわらず、これらに特化した診断基準が不足していました。また、心臓MRIの定量的な評価閾値が古い撮像技術に基づいていたため、現在の高精度な技術で得られた数値との整合性が問題視されていました。診断に必須とされた局所壁運動異常の評価も主観的で難しく、正常な解剖学的変異が異常と誤解される可能性もありました。

新しいパドヴァ基準の導入

これらの課題に対応するため、2020年に専門家パネルによって新しい「パドヴァ基準」が発表されました。この基準は、右室優位型ACMの診断基準を更新するとともに、左室優位型および両心室型ACMの診断基準を新たに組み込んだことが大きな特徴です。

Table 3
Table 3. Table 3. Key Differences between the 2010 Task Force and Padua Criteria for the Diagnosis of ACM解説: 2010年タスクフォース基準とパドヴァ基準の主な違いを示す表です。形態機能基準において、ARVCのタスクフォース基準は固定された閾値を用いるのに対し、パドヴァ基準はノモグラムに依存します。ALVCまたは両心室型ACMの基準はタスクフォース基準にはないものの、パドヴァ基準には存在します。構造的心筋基準では、タスクフォース基準にLGEの基準はないのに対し、パドヴァ基準では透過性RV LGEが主要基準として含まれています。

パドヴァ基準では、心室の形態機能的異常、構造的心筋異常、心電図異常、不整脈、家族歴、遺伝学的所見の6つのカテゴリーで評価されます。画像診断は、心室の形態機能的異常(心エコー、心臓MRI、造影)と構造的心筋異常(心臓MRIのみ)の評価に用いられます。

Table 4
Table 4. Table 4. Padua Criteria for the Diagnosis of ACM with Cardiac MRI解説: パドヴァ基準に基づくACMの心臓MRI診断基準を示す表です。右室優位型(ARVC)では形態機能的異常と構造的心筋異常の主要および副次基準が示されており、ALVCでは形態機能的異常の副次基準と、LV LGEの主要構造基準が示されています。

ARVCの診断におけるパドヴァ基準

ARVCの診断において、パドヴァ基準はタスクフォース基準を更新しています。右心室の局所壁運動異常(無運動、異常運動、膨隆)と、それに伴う全体的な右心室拡張または収縮機能不全がある場合を主要形態機能基準としています。重要な変更点は、定量的なパラメータの評価に、国際学会が提供する最新の画像検査特異的なノモグラム(標準値を示す図)を用いることを推奨している点です。これにより、若年者やアスリートなど、特定の対象者集団の生理的な心臓サイズや機能の違いを考慮できるようになりました。
また、右心室の透過性遅延ガドリニウム増強効果(LGE)は、パドヴァ基準において構造的心筋異常の主要基準として定義され、診断における重要性が増しました。LGEは心筋の線維化を示す所見であり、特に薄い右心室壁での線維化の検出は、タスクフォース基準では困難でした。

ALVCの診断におけるパドヴァ基準

左心室優位型ACM(ALVC)の診断は、パドヴァ基準の最も重要な功績の一つです。形態機能的カテゴリーには主要基準はなく、軽度な左心室収縮機能不全や左心室拡張、または左心室の局所的な低運動・無運動が副次基準となります。ALVCの主要構造基準は、心臓MRIで認められる左心室の遅延ガドリニウム増強効果(LGE)です。通常、ALVCにおけるLGEは心外膜下または心筋中央部に現れ、特に下壁や下外側壁に広範囲に及ぶことがあります。

Figure 11
Figure 11. Figure 11. DSP pathogenic variant discovered during family screening in a 53-year-old woman. (A) LGE cardiac MR image in the short-axis plane at the midventricular level shows subepicardial delayed enhancement of the inferior wall and midmyocardi- al delayed enhancement of the inferoseptal wall (arrowheads). (B) LGE cardiac MR image in the vertical longitudinal axis shows that the subepicardial enhancement at the inferior wall extends from the base to the apex of the LV (arrowheads). The cardiac MRI finding is a major criterion, and together with the presence of the genetic mutation, fulfills two major criteria and confirms the diagnosis of ALVC.解説: 53歳の女性において家族スクリーニングで発見されたDSP病原性変異を示す画像です。(A) 心室中隔レベルの短軸LGE心臓MR画像では、下壁の心外膜下遅延増強と、下中隔壁の心筋中央部遅延増強(矢印)が示されています。(B) 垂直長軸LGE心臓MR画像では、下壁の心外膜下増強が左心室の基部から心尖部まで広がっていることが示されています(矢印)。心臓MRI所見は主要基準であり、遺伝子変異の存在と合わせて2つの主要基準を満たし、ALVCの診断を確定しました。

ALVCの診断には、この主要構造基準(左心室LGE)と病原性ACM関連遺伝子変異の存在が必須とされます。これは、ALVCの画像所見が心筋炎、サルコイドーシス、拡張型心筋症など他の疾患と重複することが多く、遺伝学的情報が鑑別診断に不可欠であるためです。パドヴァ基準では、右心室の形態機能的または構造的基準を満たさない場合に、左室優位型と分類されます。
なお、中隔接合部のLGE(右心室挿入部に見られる)は、健康な対象者、特にアスリートにも頻繁に見られる所見であるため、基準から除外されています。

Figure 12
Figure 12. Figure 12. LGE cardiac MR image in the short-axis plane at the midventricular level shows midmyocardial delayed enhancement (arrows) predominantly at the RV septal insertion sites, which can be seen in healthy individuals.解説: 心室中隔レベルの短軸LGE心臓MR画像で、主に右心室中隔挿入部位に心筋中央部遅延増強(矢印)が示されています。これは健康な対象者にも見られる所見です。

両心室型ACMの診断におけるパドヴァ基準

パドヴァ基準は、両心室型ACMの診断も可能にしました。これは、右心室と左心室の両方のカテゴリーから少なくとも1つの形態機能的または構造的基準を満たす場合に診断されます。これにより、両心室に病変が及ぶACMのより正確な分類が可能になりました。

現在のところ、パドヴァ基準がACM診断に与える影響に関する文献は限られていますが、先行研究では、特に両心室型や左室優位型ACMの診断精度向上に寄与することが示されています。ただし、国際的なコンセンサスにはまだ至っていないため、今後の大規模な研究が待たれます。

心臓MRIによるACMの画像特徴と診断上の課題

心臓MRIはACMの診断において中心的な役割を果たしますが、その解釈には細心の注意が必要です。特に右心室(RV)は、その複雑な形状から、壁運動異常の評価や体積の定量化が難しい場合があります。

右心室の局所壁運動異常と正常変異

2010年タスクフォース基準では、右心室の局所壁運動異常(無運動、異常運動、非同期収縮)が診断基準に不可欠とされています。これらの異常は、「異形成の三角形」と呼ばれる、右心室の自由壁の特定の領域(基部および中間の前自由壁、横隔膜壁、漏斗部)でよく観察されます。複数のシネ画像断面(短軸、軸位、四腔長軸、右心室垂直長軸など)を用いることで、壁運動異常を詳細に評価します。

Table 2
Table 2. Table 2. MRI Protocol for Assessment of ACM解説: ACMの評価のためのMRIプロトコルを示す表です。シーケンスと断面、およびその目的が記載されています。シネSSFPは二心室のサイズと機能、局所壁運動異常の評価に、LGEは組織特性評価とLGEの評価に用いられます。T1マッピング、T2マッピング、T1強調MRI脂肪抑制画像などのオプションシーケンスも含まれます。⚠ 自動抽出画像の検証で一致を確認できませんでした。正確な内容は元論文のTable 2をご参照ください。

しかし、右心室には壁運動異常と誤解されやすい正常な解剖学的変異が多数存在します。例えば、胸骨と右心室自由壁が結合組織で繋留されている場合、これが異常運動と誤解されることがあります。

Figure 5
Figure 5. Figure 5. Tethering of the RV to the sternum in a 66-year-old man. Still images from cine SSFP cardi- ac MRI in the horizontal long-axis plane at end-diastole (A) and end-systole (B) show tethering (arrow) of the RV free wall to the posterior aspect of the sternum (adjacent to sternal wires). This can mimic regional wall motion abnormalities of the RV.解説: 66歳男性の胸骨への右心室繋留を示すシネSSFP心臓MRI画像です。拡張末期(A)と収縮末期(B)の水平長軸像(静止画)では、右心室自由壁が胸骨後方(胸骨ワイヤーに隣接)に繋留(矢印)されていることが示されています。これは右心室の局所壁運動異常と誤認される可能性があります。⚠ 自動抽出画像の検証で一致を確認できませんでした。正確な内容は元論文のFigure 5をご参照ください。

また、漏斗胸変形のある対象者では、胸壁の圧迫により右心室の形状が歪み、壁運動異常や拡張と誤解される可能性があります。

Figure 6
Figure 6. Figure 6. Pectus excavatum in a 47-year-old man. Axial MR image in a patient shows distortion of the RV, with compression of the RV base and a consequent relative enlargement of the RV apex. This can make assessment of wall motion abnormalities as well as contouring RV volumes challenging.解説: 47歳男性の漏斗胸を示す軸位MRI画像です。右心室の歪みが示され、右心室基部の圧迫とそれに伴う右心室心尖部および右心室流出路の相対的な拡大が見られます。これは壁運動異常の評価や右心室体積の輪郭付けを困難にする可能性があります。

モデレーターバンドと呼ばれる筋肉組織の挿入部が膨隆や壁運動異常と誤解されることもあります。

Figure 7
Figure 7. Figure 7. Apparent abnormality in a 28-year-old woman with a history of type I atrioventricular block. Still image from horizontal longitudinal axis cine SSFP cardiac MRI shows an apicolateral bulge (arrow) adjacent to the insertion of the moderator band in the RV free wall, a finding that can be seen in healthy individuals.解説: 1型房室ブロックの既往がある28歳女性の心臓MRI画像です。水平長軸シネSSFP心臓MRIの静止画は、右心室自由壁のモデレーターバンド挿入部に隣接する心尖部外側の膨隆(矢印)を示しています。これは健康な対象者にも見られる所見です。

心尖部が左心室と右心室で別々に形成される「蝶形心尖部」という正常な解剖学的変異も、異常運動や動脈瘤と誤解されることがあります。

Figure 8
Figure 8. Figure 8. Anatomic variant in a 28-year-old man with a history of premature ventricular contractions. Still image from cine SSFP cardiac MRI in the horizontal longitudinal axis plane shows the LV and RV forming separate cardiac apices, an anatomic variant known as a butterfly apex, which can be seen in healthy individuals.解説: 心室性期外収縮の既往がある28歳男性の解剖学的変異を示す心臓MRI画像です。水平長軸シネSSFP心臓MRIの静止画は、左心室と右心室が別々の心尖部を形成している様子を示しており、「蝶形心尖部」として知られる解剖学的変異です。これは健康な対象者にも見られます。

これらを真の壁運動異常と区別するためには、複数の断面での確認や、収縮運動が正常であることの確認が重要です。

心筋組織特性評価の課題

ACMの定義は心筋の線維脂肪組織置換ですが、心臓MRIで右心室壁の脂肪を確実に識別することは困難で、専門家間での意見の不一致も生じやすいです。また、脂肪の存在はARVC以外の疾患や健康な高齢の対象者(特に肥満の女性)にも見られることがあります。ARVCでは心筋の菲薄化を伴う脂肪浸潤が見られますが、生理的な脂肪浸潤では心筋の厚みが維持されるか増加しているのが一般的です。

Figure 9
Figure 9. Figure 9. Physiologic presence of fat in the RV wall in an older woman. Axial non–contrast-enhanced CT image shows increased wall thickening (arrow) associated with myocardial fat infiltration, as opposed to ARVC, which is associated with wall thinning.解説: 高齢女性の右心室壁における生理的な脂肪の存在を示す、軸位造影なしCT画像です。心筋の脂肪浸潤を伴う壁厚の増加(矢印)が示されています。ARVCでは壁の菲薄化を伴うのに対し、この所見は異なります。

一方、線維化の所見である遅延ガドリニウム増強効果(LGE)は、2010年タスクフォース基準には含まれていませんでしたが、ARVCの診断基準を満たす対象者の67%で検出されており、その重要性は高いです。パドヴァ基準ではLGEが主要な診断基準として採用されています。

心内膜生検も組織特性評価に用いられますが、心筋の病変が斑状であるためサンプリングエラーが起こりやすく、偽陰性のリスクがあります。また、右心室自由壁に線維脂肪組織がより多く見られるにもかかわらず、心臓穿孔のリスクを避けるために中隔から生検が行われることが多く、診断精度を低下させる要因となります。現在では遺伝子検査の普及と心臓MRIの質の向上により、心内膜生検は特定の状況下でのみ行われます。

鑑別診断の重要性

ACMは、その多様な表現型ゆえに、他の多くの心疾患と類似した臨床的・画像的所見を示すことがあります。正確な診断のためには、これらの鑑別診断が不可欠です。

右心室拡大を伴う先天性心疾患

心房中隔欠損や部分肺静脈還流異常のような左-右シャント、エブスタイン異常、ウール異常といった先天性心疾患は、右心室の拡大を引き起こし、ARVCと類似した画像所見を示すことがあります。例えば、部分肺静脈還流異常は心エコーでは見逃されることがあり、右心室拡大の原因としてARVCが疑われることがあります。エブスタイン異常は、三尖弁の弁尖が右心室側に偏位することで右心室が拡大する疾患で、その特徴的な解剖学的所見からARVCと鑑別されます。ウール異常は、右心室の心筋が完全に欠損し、心内膜と心外膜が接合する稀な疾患で、脂肪組織による置き換えが見られるACMとは組成が異なります。これらの疾患の鑑別には、心臓MRIやCTなどの詳細な画像評価が役立ちます。

サルコイドーシス

サルコイドーシスは全身性疾患であり、心臓にも病変が及ぶことがあります。特に、心臓にのみ病変が認められる孤立性心臓サルコイドーシスでは、臨床的および画像的な鑑別がACMと非常に困難です。心臓サルコイドーシスにおけるLGEは斑状で心外膜下または心筋中央部に多く、左心室側壁、乳頭筋、心室中隔基部、右心室自由壁など様々な部位に認められます。広範囲に及ぶ線状の心外膜下LGEが左心室側壁や下側壁に見られるALVCとはLGEパターンが異なる傾向がありますが、その鑑別は依然として難しいです。対象者の年齢、家族歴の有無、左心室機能の重症度、心室中隔基部の伝導異常なども鑑別に考慮されます。パドヴァ基準ではALVCの診断に病原性遺伝子変異を要求しているのは、この鑑別困難さが背景にあります。

心筋炎

心筋炎とACM、特にALVCの画像所見は大きく重複することがあります。心筋炎におけるLGEもしばしば心外膜下に位置するため、特に非急性期において、非虚血性の線維化が心筋炎後の瘢痕と判断されることがありますが、これは未発見のACMである可能性も考慮すべきです。両者の鑑別は非常に難しく、ALVCの診断においては、遺伝子変異の存在が極めて重要な情報となります。

今後の展望

ACMの診断と管理は、今後もさらなる進化を遂げると考えられます。
心臓MRIの新しい技術、例えばLV環状ストレインやRV長軸ストレインなどのフィーチャートラッキングストレイン解析は、持続性心室性不整脈との関連が示唆されています。また、T1、T2、細胞外液量などのパラメトリックマッピングは、心不全による入院や心臓移植、心臓死との関連が報告されていますが、心室性不整脈との直接的な関連はまだ確立されていません。これらの非侵襲的な画像診断技術のさらなる発展は、微妙な構造変化を特定し、重症化するリスクのある対象者を予測するために非常に重要です。
将来的には、遺伝子補充療法や遺伝子編集のような治療法が開発され、疾患の転帰を劇的に改善する可能性があります。しかし、これらの先進的な治療法を効果的に適用するためには、重症化するリスクのある対象者を早期かつ正確に特定する能力が不可欠となります。そのため、画像診断技術の継続的な進歩が、ACMの対象者の予後改善に大きく貢献すると期待されます。

補足図表

Figure 13

Figure 13
Figure 13. Figure 13. ALVC in an 18-year-old man with a DSP pathogenic variant who presented with ventricular tachycardia. (A) Still frame from cine SSFP cardiac MRI in a horizontal longitudinal axis plane shows mild LV enlargement with low-normal systolic function (ejection fraction, 54%). (B) LGE cardiac MR image in the short-axis plane at the midventricular level shows extensive abnormal delayed enhancement (arrowheads) in a subepicardial pattern involving the anterior, anteroseptal, inferoseptal, and inferior walls.

Figure 14

Figure 14
Figure 14. Figure 14. Biventricular ACM in a 63-year-old woman with a family history of ACM and a DSP pathogenic variant in a sister. (A) Still frame from cine SSFP cardiac MRI in the short-axis plane at end-systole shows a focal area of dyskinesia (arrowhead) in the RV free wall. The RV was normal in size (end-diastolic volume index, 75 mL/m2) and demonstrated reduced systolic function (ejection fraction, 36%), therefore fulfilling one major morphofunctional Padua criterion for RV involvement. The LV was also mildly dilated and showed depressed function (end-diastolic volume index, 108 mL/m2; ejection fraction, 36%) with regional hypokinesis, fulfilling two minor LV morphofunctional criteria. (B) LGE cardiac MR image in the short-axis plane at the midven- tricular level shows almost circumferential abnormal enhancement (arrowheads) in a subepicardial distribution, fulfilling one major Padua criterion for LV involvement and therefore suggesting the diagnosis of “definite biventricular ACM.” The patient was subsequently found to have a DSP variant.

Figure 15

Figure 15
Figure 15. Figure 15. Biventricular ACM in a 26-year-old woman who presented with acute chest pain and presumed myocarditis. (A) Horizontal longitu- dinal axis (four-chamber) image from SSFP cine MRI shows a mildly dilated RV (119 mL/m2) and reduced function (ejection fraction, 31%) with a focal area of dyskinesis in the apical segment of the RV free wall (arrowheads) during systole. The left ventricular function was also depressed, with akinesis of the mid to apical septum. (B) Short-axis T2-weighted black-blood cardiac MR image at the mid ventricular level shows increased signal intensity of the LV myocardium (arrows) at the inferior and inferoseptal walls, consistent with edema. (C) Short-axis delayed-enhance- ment cardiac MR image at the apical level shows subepicardial LGE of the inferior wall, transmural LGE of the septal wall (black arrowheads), and circumferential LGE of the RV free wall (white arrowheads). Biopsy results were negative for giant cell myocarditis or other infiltrative diseases. Electrocardiography (not shown) demonstrated epsilon waves, and the patient had nonsustained ventricular tachycardia of different morphol- ogies. There was limited family history available because the patient was adopted. The clinical and MRI features fulfill the Padua criteria for biventricular ACM and the 2010 task force criteria for ARVC.

Figure 16

Figure 16
Figure 16. Figure 16. Partial anomalous pulmonary venous return in a 40-year-old woman with a history of palpitations and RV enlargement seen on an echocardiogram. (A) Still frame from cine SSFP cardiac MRI in a horizontal longitudinal plane shows a dilated RV (end-diastolic volume index, 211 mL/m2). (B, C) Axial T1-weighted fast spin-echo non–fat-suppressed MR images at the level of the aortic arch (B) and at the level of the origin of the arch vessels (C) show anomalous drainage of the left superior pulmonary vein into the left brachiocephalic vein (arrow), which was the cause of the RV enlargement.

Figure 18

Figure 18
Figure 18. Figure 18. Dilated right ventricle seen previously on an echocardiogram (not shown) in a 17-year-old adolescent girl. Cardiac MR image acquired to evaluate for the pres- ence of ARVC shows a previously unsuspected Ebstein anomaly with apical displacement of the septal leaflet of the tricuspid valve (double-headed arrow).

Figure 20

Figure 20
Figure 20. Figure 20. Acute myocarditis in a 30-year-old man with a viral prodrome who presented in the emergency department with chest pain. LGE cardiac MR imag- es in the short-axis plane show subepicardial enhancement in the LV lateral wall (arrows). T2-weighted images (not shown) demonstrated high signal intensi- ty in the LV lateral wall.

Table 1

Table 1
Table 1. Table 1: 2010 Task Force Criteria for the Diagnosis of ARVC with Cardiac MRI解説: 2010年タスクフォース基準に基づくARVCの心臓MRI構造機能基準の表です。主要基準として、右心室の局所無運動、異常運動、または非同期収縮に加えて、右心室拡張末期容積と体表面積の比が男性で110mL/m2以上、女性で100mL/m2以上、または右心室駆出率が40%以下であることが挙げられます。副次基準も同様の壁運動異常に加えて、右心室体積比が男性で100mL/m2以上、女性で90mL/m2以上、または駆出率が40%超45%以下の場合です。

用語集

  • 不整脈原性心筋症 (ACM): 心筋が線維脂肪組織に置き換わることで、心室性不整脈や突然死のリスクを高める遺伝性の心疾患。
  • デスモソーム: 細胞と細胞をつなぎ合わせる細胞間接着複合体で、心臓や皮膚組織に存在する。
  • 線維脂肪組織置換: 心臓の筋肉組織が、線維性組織や脂肪組織に置き換わる病理学的変化。
  • 右室優位型不整脈原性心筋症 (ARVC): 不整脈原性心筋症のうち、主に右心室に病変が集中するタイプ。従来の名称はARVC。
  • 左室優位型不整脈原性心筋症 (ALVC): 不整脈原性心筋症のうち、主に左心室に病変が集中するタイプ。
  • 両心室型不整脈原性心筋症: 不整脈原性心筋症のうち、右心室と左心室の両方に病変が認められるタイプ。
  • 2010年タスクフォース基準: 右室優位型不整脈原性心筋症(ARVC)の診断のために国際的な専門家が策定した基準。
  • パドヴァ基準: 2010年タスクフォース基準の課題を解決し、左室優位型や両心室型不整脈原性心筋症にも対応した新しい診断基準。
  • 心臓MRI (Cardiac MRI): 心臓の形態、機能、血流、組織性状などを詳細に評価できる画像診断法。
  • 遅延ガドリニウム増強効果 (LGE): 心臓MRIで造影剤ガドリニウムを投与後、心筋の線維化や瘢痕化している部位に造影剤が貯留し、高信号として描出される現象。
  • 心エコー (Echocardiography): 超音波を用いて心臓の動きや構造、血流を評価する画像診断法。
  • 右心室造影 (Right ventricular angiography): 造影剤を用いて右心室の内部構造や機能を評価する検査。現在ではMRIが優先される。
  • 心内膜生検 (Endomyocardial biopsy): カテーテルを用いて心筋の一部を採取し、病理学的に組織診断を行う検査。
  • 収縮機能不全 (Systolic dysfunction): 心臓が血液を全身に送り出す収縮機能が低下している状態。
  • 心室拡張 (Ventricular dilatation): 心臓の心室が正常よりも大きく拡張している状態。
  • 局所壁運動異常 (Regional wall motion abnormality): 心臓の壁の一部が正常に収縮しない、または異常な動きをする状態。
  • 無運動 (Akinesia): 心臓の壁の一部が全く動かない状態。
  • 異常運動 (Dyskinesia): 心臓の壁の一部が収縮期に外側に膨らむなど、異常な動きをする状態。
  • 非同期収縮 (Dyssynchronous contraction): 心臓の壁の異なる領域が、適切なタイミングで協調して収縮しない状態。
  • 低運動 (Hypokinesia): 心臓の壁の一部が正常よりも動きが低下している状態。
  • アコーディオンサイン (Accordion sign): 右心室自由壁に微小動脈瘤や局所的なしわくちゃな外観が見られる所見。
  • ノモグラム (Nomogram): 複数の変数の関係を図示し、特定の条件下での標準値や予測値を示す図表。
  • 先天性心疾患 (Congenital heart disease): 生まれつき心臓の構造に異常がある病変。
  • 心房中隔欠損 (Atrial septal defect): 心臓の左右の心房を隔てる壁に孔が開いている心疾患。
  • 部分肺静脈還流異常 (Partial anomalous pulmonary venous return): 肺から心臓に戻る静脈の一部が、異常な経路で右心房に流れ込む心疾患。
  • エブスタイン異常 (Ebstein anomaly): 三尖弁が右心室側に偏位し、右心房が拡大する先天性心疾患。
  • ウール異常 (Uhl anomaly): 右心室の心筋がほとんど、または完全に欠損している稀な先天性心疾患。
  • サルコイドーシス (Sarcoidosis): 全身の臓器に肉芽腫という炎症性のしこりができる原因不明の疾患。心臓に病変が生じることもあります。
  • 心筋炎 (Myocarditis): 心筋に炎症が起こる疾患で、ウイルス感染などが原因となることが多い。
  • ゴールデンスタンダード (Golden standard): 特定の検査や診断法において、最も信頼性が高く、標準とみなされるもの。
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